5 キッチン掲示板〜ネットでリレーションシップ

 
ここではインターネット流通全般を語るのではなく、顧客データベースをもつ小売業はこの新たな情報技術をどのように利用したらよいか筆者の主張を述べたい。コンセプトは「本業」を支援するインターネットの活用法である。インターネットショッピングを別事業として展開するのではなく、店売り(本業)を支援する利用方法、顧客との関係を高める利用方法に限定する。


5−1 テスコモデル ピーポッド

本業支援が基本思想
テスコはネットショッピングサービスを行なっている。彼らが開始した理由はあくまで本業支援、多忙でお店にこられない会員に自宅に商品を届けるというコンセプトで開始している。銀行(バンキング)も始めているが、これも銀行口座カード(デビットカード・日本で言うキャッシュカード)で買い物をしたいという顧客ニーズにこたえるために銀行を買収して始めたのがはじまりである。周辺サービスはすべて本業を支援するというコンセプトから外れていない。
本業とは別に別事業部としてネットショッピング事業を起こし「売れるものは何でも売る」のコンセプトでスーパーがエルメス(婦人用バック)、ロレックス(時計)など販売をしているが、ここではこのネット事業についてはコメントしない。これはこれで独立事業体として成り立つのであれば各社の企業戦略でありそれはそれで結構だと思う。
ここで述べるコンセプトは「会員カードと直結」によって顧客との関係強化を支援するネットショッピングについて提案する。テスコと同じ戦略をとる。
テスコのネットショッピングは米国ピーポッドをモデルにしたそうだ。

ピーポッドのホームデリバリー事業
ピーポッド(peapod)は、1989年、アンドリューとトーマスパーキンソンによって創業された。食料品、雑貨商品など会員からオンラインで受注し自宅に届けるビジネスである。すべてコンピュータ管理のビジネスである。創業はセンセーショナルだった。米国3大ネットワークのニュース番組で取り上げられ話題になった(筆者はこのニュースを見て興奮したことを覚えている)。
テストマーケティングはシカゴで、1993年開始、パートナー小売業はジュエル(Jewel)。
ホームデリバリーは当初、つぎのような仕組みだった(拙著『デジタル流通革命』ダイヤモンド社)。
・ピーポッド社のオンラインサービス契約を結び会員になる
・自宅のパソコンに利用ソフトをインストールする
・会員は画面上に表示される部門の絵柄をクリックする
・「商品リスト」が表示される
・特別価格や商品用途(たとえば糖尿病に適しているなど)のコメントが商品に記載
・商品リストで商品を購入する(ショッピングカートに入れる)
・配達は2週間先まで指定可能、配達時間枠は1時間半(特別料金で30分枠可能)
注文した買上情報がピーポッドを通じて提携スーパー(当時ジュエル、2006年はストップ&ショップ)に伝送される。その店舗で緑色の制服をまとったピーポッドの従業員が会員ごとの買い物リストをプリントし、スーパーで会員に成り代わって買い物をする。代金はレジで支払う。自分の担当である会員の買い物を終えたら指定された配達時間に会員の自宅を訪問し、商品を渡し、代金を受け取る。代金は自宅パソコンで表示された金額が請求金額になっている。一人住まいのシカゴの人間がニューヨークに出張し、来週日曜日遅く帰宅する人間にとって便利なサービスになる。冷蔵庫は空っぽ。スーツのまま空港からスーパーに行くのも面倒だ。誰かが買い物してくれて自宅に届けてくると有難い。そのニーズに応えるサービスである。

体験に渡米
サンフランシスコで、1993年にサービスが開始されていた。パートナー小売業はセイフウェイ(Safeway)。
実際に体験をしたいと思いサンフランシスコ在住の友人に会員になっていただきあらかじめソフトをインストレーションしてもらうよう連絡し友人の自宅を訪れた。友人の自宅であれやこれやと買い物をした。掃除用品、暖炉の薪(運搬する必要がないので友人が喜んで注文)、ワインやらチーズ、ローストビーフ、サラダなど注文した。金額は軽く1万円を超えた。配達日を明日の午後5時に指定し、パートナーとなっているセイフウェイの見学にでかけた。
翌日、今か今かと首を長くして待っていた。玄関のチャイムが鳴った。「ピーポッドです」とドアの向こう側から元気な声。お届け商品リストと商品をチェックしお金を払った。品切れで配達できなかった商品もあった。なるほど便利である。
ピーポッドはオランダの国際流通業ロイヤルアホールド(Royal Ahold)に売り渡されている。アホールドは、2000年、51%株式を購入、2001年8月100%の株式を取得し子会社化している。今、彼らの傘下でピーポッドが経営されている。


5−2 対話の道切り開く

対話の道具
インターネットというとスーパーはじめ小売業従業員は別な世界という認識がある。「難しいもの」「若い人がやるもの」「スーパーにはあまり関係がない」といった感想をお持ちの方が多いようだ。難しいことはない。電話と同じである。
1995年、ダラスで行なわれた毎年実施されている「ダイレクトマーケティング年次大会」で感動したことがある。
折りしも1995年はインターネットの創世記。「インターネットとは何ぞや」とインターネットコースに大勢が群がった。
全員自由参加のゼネラルセッションで先鋭の若きアドベンチャーが講演をした。その手には一本の電話線が握られていた。
「レディ・アンド・ジェントルマン。これは何でしょうか」と電話線を両手で広げて見せた。全員「?」。
「これ、インターネットですよ。インターネットは単なる電線。電話線と同じこと」「対話するツールに過ぎないのです」という話から始まった。「重要なことは何に使うか目的ですよ」とインターネットを事業にどう活かすかの講演が始まった。10年前のダラスである。
インターネットは広告の道具であるテレビ、ラジオ、折込チラシと同じ道具。テレビ、ラジオは不特定多数のマスに広告する道具。インターネットも誰が見るかわからないが不特定多数のマス媒体である。
しかし利用方法によってはまったくテレビやラジオでできない使い方ができる。電話と同じように1対1で会話ができる。アナログかデジタルかの違いだけである。もっとも最近ではテレビも電話もデジタル化が進み、1対1の対話が可能になりつつある。
インターネットは会話の手段、電話やダイレクトメールと同じジャンルであると考えて欲しい。このコストの安い道具をマーケティングにどしどし活用していくべきである。スーパーなど小売業はまだまだインターネットを使った個人特定の対話創造に熱心ではない。カードを発行し顧客マスタがあるにもかかわらず顧客マスタという財産のもてあましになっている。

ブームを起こす条件
インターネットをマーケティングに活用するためには技術知識(外部委託可能)だけでなく、魂、志、気迫、旺盛なエネルギーが重要。自社のホームページに会員が群がり、ブームを越すためにはつぎの6条件を理念とし、この6条件を会社文化として確立できなければならない。流行だからと"無"目的、"無"戦略ではじめてはならない。真剣勝負である。
・顧客のお世話優先(顧客フォーカス) 自分のこと、つまり会社のことは後回しする精神構造がなければ失敗する。何が何でもお客様が先である。
・お得提供(消費者への利益還元) 顧客が購入している商品の特別価格、関連商品特別価格、お届け無料、駐車場無料利用権などお得な特典の提供をどしどし提供すること
・情報満載(インフォメーション主導) 社長の顔など消費者には関係ない。消費者が欲しいのは商品産地や使用原料など正確な商品情報、自分の買い物履歴情報、近隣イベント情報、3分間簡単料理レシピ、商品保存ハウツーなどシンプルな情報を満載すること。長い文章は禁物。20字〜50字以内で表現したい。
・対話(インタラクティブ性) 会員データと結びつけ会員一人ひとり(インディビジュアル性)のメッセージを届けるよう精一杯努力すること。万人向けの情報は見る人の興味を引き出せない。
・挑戦意欲 言わずもがな。意欲がなければ何も伝わらない。意欲はコンテンツ(掲載内容)や表現に現れる。やる気のない、いつも同じ内容では見向きしなくなる。
なにより重要なのは"旺盛なチャレンジ精神"。
以上、6条件を満足するホームページを作ればブームを起こすことができる。

「新任務」お世話係
留守番とか電話番はよく口にする。夜勤係もそうだ。クレーム係も設けている企業もある。クレーム係は誰だかよくわからない顧客の苦情に専門的に対応する仕事をこなす。お客様対応は前向き(積極的)ではなく後ろ向き(消極的)になっている。背中をお客様のほうに向けできたら話をしたくない。苦情を言われるから仕方なく対応している。このような後ろ向きのお客様対応は即刻態度を改める必要がある。顧客関係構築という戦略実行に何の役にも立たない。
前向きにお客様と対応する。顔を真直ぐ向けて「にこっ」と挨拶する現場を作り上げる努力をすべきである。
クレームを言う誰だかわからないお客様中心ではなく、2章で述べた「顔が見えている」スーパースターS1セグメント顧客はじめ、よく購入してくれるS7セグメントまでのお客様と前向きに対話しお世話する係りを準備する。
ホームページに会員がアクセスしてきたら「あなた様のお世話係は、私、田中です」と表示する。最初は小さくてもよいから相談を受ける電話センターを準備する。
顧客マスタ(後述)、ダイレクトメール、現場販売員、電話(電話対応センター)がこれからの小売経営の必須条件になる。ダイレクトメールからはじめ、ネットでさらにコンタクトを増幅し、徐々にコストの安い「電話やメール」ツールで対話できるようにする。お世話係はお客様とのリレーションシップを大きく高めてくれる。


5−3 日本スーパーのホームページ

求人広告主流の怪奇現象
もっとも魅力のないホームページは、いきなり社長の顔が出てきて「わが社の理念」なるものがとうとうと述べられているホームページ。「会社概況」「店舗紹介」「関連企業」「求人募集」「品揃え理念」の項目を閲覧できるだけ。「わが社はお客様と共に繁栄します」などと理念で語っているが、お客様が参考にできるページは1ページもない。単なる求人広告だけのホームページになっている。インターネット時代をまったく理解していない。このようなホームページがまかり通っている。インターネット、ホームページは「目に見えない」広告塔である。"無"戦略、経営者の"無"意思のホームページを開設している意味がない。
もう少し真剣に検討したと思われるホームページは「今月のこだわり商品」「私が選んだこだわり商品」「奥の手レシピ」「今月のお買い得情報」などのページで構成している。レシピはバックナンバーで検索でき、パソコンに表示しプリントもできる。顧客志向の気配を感じる。
しかし、これも人気になるホームページとはいえない。「誰かが見てくれるだろう」「格好いいね」のたぐい類で毎日来店し購入しているロイヤルカスタマー(ひいききゃく贔屓客、常連顧客)に人気になるホームページではない。このホームページを立ち上げている会社はポイントカードを実施しているがホームページと会員は連結されていない。もっと顧客に接近したコンテンツにしたほうがよい。
小売業は顧客を目の前にしているのに顧客志向の実践方法を理解していない。言葉で語りながらどうすればよいかわからない。「お客様のために」という重要な一点が実践では完全に抜けてしまっている。自社のホームページを顧客志向の視点から再検討してみる必要がありそうだ。

劣悪ホームページの犯人
劣悪ホームページの第一の原因は動機が不純、無目的。流行だから「うちでもホームページがないとなんとなく恥ずかしいよ」といった思いから開設することにある。目的をよく検討せず実施している傾向がある。
第二の原因は経営者が「俺はシステムのことはわからない」といって現場に任してしまうこと。できあがったページの最初に自分の顔がでてきて「いいじゃない」とマーケティング視点を取り入れず開設してしまうこと。「何のために開設するか」「なぜ開設するか」経営トップの明確な意思が必要だ。
第三の原因はホームページの制作会社が標準的なホームページを提案しそのまま提案を受け入れ開設してしまうこと。きわめて安易だ。担当した人間は責任を果たしているとはいえない。
制作会社スタッフはデザインや画面構成にすぐれていても彼らには「顧客志向」というマーケティング感覚も発想もない。スーパーはどのような商売をしているかさえわかっていない。ショッピングの苦しさも楽しさも生活の辛さ、家計のやりくりの経験がまったく薄い。売上を上げたいという強い意識もない。
これでは魂のこもった、人々を巻き込むエネルギーを伝えるホームページができるはずがない。安易に外部に任せるのではなく、どのような思いを伝えたいかをよく考え、検討し、時間をかけて魂のこもったページ内容を作り上げて欲しい。

ちょっとましなホームページ
少し顧客を意識したホームページをちらほら見つけることができるようになってきた。「なっとくクーポン」のページがあり自宅のパソコンでクーポンをプリントできる。今日のなっとくクーポンをクリックすると印刷用ページが表示される。そのページをプリントして店舗で提示すれば割引きしてもらえる。「ゆば乳の姫とうふ」2割引、「焼きそば」2割引など6枚のクーポンページが出てくる。
「ギフトショッピング」のページもある。申込者の名前・住所・電話番号など入力、お届け先は5件登録できる。お届け先ごとに商品欄で「お選び下さい」のメッセージがあり、クリックすると商品リストが表示される。支払方法は銀行振り込みになっている。
「宅配サービス」もある。宅配してもらいたい商品を選んで配達日を入力し、名前、電話番号、住所を入力し、配達サービス店舗を選ぶ(クリック)。
会社情報は「会員カード案内」「会社情報」「店舗案内」「素材へのこだわり」「部位別レシピインデックス」など情報がある。社長さんの顔はでてこない。 
このホームページにはお客様志向がある。自宅でショッピングでき、配達してもらえ、ギフトも注文でき、割引き商品クーポンをもらえる。会社理念、店舗紹介、事業案内、マーチャンダイジング方針、求人だけのホームページとは雲泥の差がある。


5−4 直結サービス

「ダイヤモンド原石」顧客マスタ
顧客マスタがあるのにその価値をまったく理解していない。企業価値を獲得できずにいる。もったいない現象である。その理由を述べる。
無認識のスーパーだと顧客マスタを外注先に任せたまま。ポイントカードを実施しているのに顧客データは自分の会社には存在しない。外注先から月毎に分厚い購買金額順のレポートを貰っているだけでなんとも情けない状態になっている。この状況に誰も「変だ」と思わないし、経営者も何も感じていない。「自社でやるよりコストが安い」と安易に意思決定した結果である。経営者は猫でも馬でもないが「猫に小判」「馬の耳に念仏」といった状態になっている。とんでもない悲劇である。
顧客マスタは「宝の山」、磨けばダイヤモンドになる企業財産である。"磨けば"の意味は"利用すれば"のたと喩えである。利用すれば顧客マスタはそれこそ金剛のような輝きを放つ。
2章から4章まで顧客の購買行動(来店日数などRFM条件)や購買ライフスタイル(購買態度)を研究し、ダイレクトメールで仕掛けることを述べたが、この思想にインターネットテクノロジーを活用すれば、さらに縁作りが深まる。
「ポイントカードを実施している企業さんはダイヤモンドの原石をもっていることになるんですぞ」。そのことを"深く"認識していただきたい。

会員直結新世界
顧客マスタが頑丈に囲まれた部屋にがっちり管理されている。
10店舗10万名のポイントカード会員番号ごとにお名前・住所・電話番号・郵便番号・生年月日の顧客名簿をもっている。
この顧客マスタとすべての販売活動を連動する。
・昨日1万円以上購入してくれた人を取りだす。「お礼の電話をする」
・昨年12月末3日間、すき焼きを5000円以上購入した人を取り出し、ダイレクトメールを送る。
・インターネットで宅配を申し込んできたデータで自動的に宅配リストをプリントする。
・インターネットでギフトを注文してくれたデータを自動的に業者に連絡する。
・インターネットで注文のあった鰻重を店舗で日別時間別に料理する
インターネットでというのが「コツ」になる。
本業支援する基本概念をインターネットに植え込む。
インターネットの向こう側に会員がいる。会員がパソコンの電源を入れ、サービスを利用しようと浸入してきたら顧客マスタから「田中さん。いつも有難うございます」とメッセージを送り注文を受ける。
サービスの利用は会員であり名前、住所、電話番号の登録は不用。会員番号を入力していただくだけですべて確認できる。会員と顧客マスタを直結できる。
インターネット用の顧客マスタを準備すれば実現する。
米国FSP成功企業として多くの日本人が訪問されているオハイオ州デイトン(ライト兄弟の出生地)のスーパー"ドロシーレーンマーケット"のホームページは会員向けになっている。
自宅のパソコンで「いつ」「何を」購入したかの購買歴(家計簿)、自分だけに提供されるクーポン(個人別クーポン)、会員の「クラブニュース」の発行、キッズクラブへのメッセージなど会員別にメッセージを提供するホームページになっている。
顧客マスタの徹底活用で顧客との縁をさらに深く掘り下げることができ、消費枠シェアアップや長期消費枠を高めることが可能になる。ダイヤモンドの原石をピカピカ輝くダイヤにする気迫を持って欲しい。

巻き込み
ホームページで大成功する最も重要な要素は会員を巻き込むことにある。巻き込み(インボルブメント)は重要な用語。巻き込み、係わり合い、連発、手ごたえの意味がある。
会員直結は巻き込みの最高のエンジンと考える。つまりオンリーユーを演出し、顧客は「自分だけ」の情報、自分だけのサービス、自分に対する特典など感じることができる。
テレビやラジオ、折込チラシは「オンリーユー」の演出はできない。やらせ、偽者、ウソっぽいとますます嫌われ、感情抜きの第三者的関係のみで縁作りにはならない。
これまで慣れ親しんできた不特定多数の販促をひとまず横において、一度、外の世界を覗いてみる。箱の中の世界から箱の外へ勇気をもって出てみる。「こっちの水」はさておき「あっちの水」を想像してみる。「あっちの水」は特定の顧客、会員一人ひとりに向けた個別対応の対話を仕掛ける世界である。会員は新世界を歓迎し飛び込んでくる。あとは巻き込んでいくだけである。
「顧客を巻き込んでいるか」「そのキャッチフレーズ、その特典、そのコンテンツはお客様を巻き込めるか」などすべての販売活動で顧客を巻き込む意識が重要になる。ハリケーン、台風を想像して欲しい。ハリケーンは周囲を巻き込み、すべてを天高く舞い上げる。あのエネルギーを演出する。ダイレクト(直接)は顧客を巻き込むのに最適な手法である。


5−5 新分野収穫を仕掛ける

5つの新収穫モデル
顧客マスタと会員を直結して店舗ではできないことを仕掛けることができる。新たな売上の"種をまき"をし、縁作りというお日様と水と肥料を与え、秋には売り上げという実を収穫する。
会員マスタを"種"とし、ホームページを日々更新し、会員から新たな売り上げという収穫を上げる。「蒔かぬ種は生えぬ」ということわざ諺がある。新たな収穫の種を蒔くことにしよう。
会員だからこそ利用できる"取っておき"のサービス、会員にならなければ利用できないサービスを実施する。つぎに掲げる5つの基本サービスが新たな売上の種になる。
(1)予約販売
(2)取寄せ販売
(3)ギフト販売
(4)配達商品販売
(5)会員情報(ポイント情報、クーポン、クラブ情報ほか)

予約販売 
日本人はつぎのような伝統文化をもっている
1月「お正月元旦」「成人の日」「七草」「小正月」、2月「節分」「バレンタインデー」、3月「謝恩会」「桃の節句」「春の彼岸」、4月「入園・入学」、5月「連休」「端午の節句」「母の日」、6月「父の日」、7月「七夕」「お盆」「海の日」「土用の丑」、8月「ふるさと帰省」「月遅れお盆」、9月「敬老の日」「秋のお彼岸」、10月「十五夜」「体育の日」「運動会シーズン」、11月「文化の日」「一の酉」「七五三」、12月「クリスマス」「大晦日」
最近、セブンイレブンもローソンもファミリーマートもその時期になるとレジ横に予約注文のパンフレットを山済みしている。
たとえば節分シーズンの恵方巻き寿司の予約、土用丑の日に鰻重の予約販売など。小さなパンフレットのさらに小さく枠を取った部分に氏名、住所記入欄に記入して注文する。だが注文をしているお客様を見たことがない。きわめて少数のお客様の注文だろう。会社近くのあるコンビニで鰻重の注文はあったか聞いてみた。ゼロだったそうだ。
紙とコストの浪費のひとつだろう。1万店舗、1店舗当り100枚印刷するとして100万枚の印刷になる。1枚1円なら費用は100万円。荒利益率35%なら約3000万円の売上を獲得しなければならない。不特定多数にビラを印刷し予約を待つ。「業者負担だからかまわない」という問題ではない。
コンビニでも最近のはやりはポイントカードを発行する。ローソンから始まった。片方でポイントカードをだしているのに予約販売に活用しない。活用する仕組みがない。もし会員が住所を書かずに申込でき、店頭で受け取ることができるなら予約販売はもっと活性化するであろう。
ポイントカードを実施している小売業は、会員マスタ(顧客マスタ)と会員パソコンと連結できるような仕組みを準備することで予約販売という新たな売上の道が拓く。会員向け商品メニューを季節に合わせ、予約販売のイベントをやれば大きな注文の獲得になる。
スーパーが自社のホームページで予約サービスを始めれば、ポイントカード会員に鰻重、誕生日ケーキ、恵方巻き、クリスマス用ワインなど販売促進を仕掛けることができる。
予約注文は店頭渡しとし、来店日(引き取り日)を入力してもらう。入金は店頭入金にする。顧客が入力したデータで受取日時別に集計印刷すれば店内加工は計画的、効率的に作業できるし、お客様を待たせなくてよくなる。

取寄せ商品販売 
子供のアトピーに悩んでいる母親はアトピーに影響のない商品を必死になって求めている。スーパーでは一般的ではないので通常取り扱っていない。ニーズがあっても説明しないと売れない商品、しかも消費期限が短くロスばかりでスーパーの販売に不向きな商品がたくさんある。無添加、有機商品といってもほんの一部の消費者が求めているだけで大衆が求めているニーズではない。品揃え全部を無添加商品にしたら需要が限られ経営が成り立たなくなる。しかし需要は小さいが商圏消費者のニーズはある。このニーズに応えれば顧客の信頼が増し、縁がより深くなる。
これらの特別な商品を商圏顧客のニーズに応える方法がある。スーパーが楽天と同じようなインターネットショッピングを積極的に実施する。ただしポイントカード会員だけの限定販売にする。
会員の顧客マスタがある。会員は自宅パソコンから、たとえば670円の低温殺菌中洞牧場の牛乳を注文する。会員番号だけで注文でき早く簡単に注文は完了する。商品受取は店頭を原則にし、申込会員は商品到着予定日に来店し商品を受け取り、店頭で入金する。店頭を利用した商品取寄せ販売である。来店していただくと、取寄せ商品のみならず、ついでに店内商品を購入していただく可能性が高い。来店促進効果もある。小売業が取るべき戦術である。

ギフト販売 
このサービス利用は会員にギフトクラブ会員になっていただくことを前提とする。いわゆるパーミッション(承諾手続き)である。カード会員にインターネットでのギフト注文サービスを利用するかどうかパーミッション(許可)をあらかじめいただく。パーミッションは個人情報保護法上重要な行為である。許諾をいただくことを原則にする。
ギフトクラブに入会するというパーミッションをいただいたら送り先の登録票に送り先を登録してもらう。
送り先氏名・住所・電話番号など必要な項目を用紙に記入して提出していただく。この情報を会員のギフト客先として顧客マスタに保管し管理する。
スーパーの買い物データを見ていたら、毎月、定期的に果物2万円購入されるお客様がいた。聞いてみると、東京のお子さんに送っているとのこと。
1カ月おきにお酒を1万円購入していた。聞いてみると、息子さんに送っているとのこと。
子供さんが東京や関西の短大、大学に通学しているとか、息子さん、娘さんが東京や関西の会社に就職していると母親は地元の商品を送り届けたいという"母想い"ニーズがある。送り先登録票に家族の名前・住所・電話番号を記入してもらう。
お中元やお歳暮のお届け先も事前に表に記入して提出していただく。
ギフトクラブ会員は自宅のパソコンでギフトを注文する場合、お届け先を表示させ(事前登録済み)、お届け先リストからお届け先名、商品リストから商品を選ぶという繰り返しでギフト注文は完了する。いちいち送り主、お届け先を入力必要はなくなる。お届け名簿の削除は会員自身ができるような仕掛も用意するとよい。

配達商品販売
このサービスも事前承諾制度(パーミッション)にしクラブにする。"宅配クラブ"会員を募集する。配達は有料にしてもニーズのある会員はクラブ会員になってくれる。
今目の前に、スーパーの上位100名の部門別購入明細がある。野菜購入者は100%が購入、果物は97名、鮮魚は98名、精肉は94名が購入している。しかし米は50名しか購入していない。上位100名でも米の購入者は半分だ。未購入者100名に宅配無料クーポン特典のダイレクトメールを送った経験がある。なんと66名が購入してくれた。「なぜ購入しないか」のアンケートに、自転車で買い物行くので米は息子に買い物してもらっているという意見が多かった。
野菜やお肉、魚を購入し、それに米を持って自転車に乗るなど想像できない。かさ張る商品や重量の重い商品は、買上上位顧客でも買い物してくれない。消費枠シェアが満額にならないひとつの理由がここに存在している。
トイレットペーパーなどかさ張る商品、米・ミネラルウォーターなど重量のある商品は宅配サービスを会員に始める。消費枠シェアは、必ず拡大する。
つぎのような仕掛にする。
顧客マスタに宅配クラブ会員であることを記録しておく。そのお客様にスーパーが選択した「今月の配達商品」など表示し注文を受ける。会員マスタが準備されているので配達先住所がなくても配達リストを出力でき、配達できる。顧客マスタがあるからできる前向きのサービスである。

会員情報サービス
このコンテンツは新たな売上収穫ではない。会員サービス、会員向け特典のコンテンツになる。顧客マスタがあるのだから、ポイント情報など顧客情報を顧客別に集計する。その情報を会員自身が自宅で見られるような仕組みにする。
スーパーや百貨店が実施しているポイントカードは、お客様が獲得したポイントをレシートに表示するか、店頭設置のキオスクでポイント情報を表示し知らせるようにしている。これを自宅のパソコンで見られるようにする。米国スーパーが普通にやっていることである。
会員番号があり、名前・住所があり、ギフトクラブや宅配クラブのマーク(しるし)が記録されてあり、ギフトクラブ会員はお届け先の氏名・住所が記録されている。さらにその会員のポイント獲得データ(累計獲得ポイントや還元ポイント、残ポイント)が記録され、年4回発行するダイレクトメールクーポン商品のクーポン組合せ番号が記録されている。
会員別情報をすべてホームページで提供することによってさらに顧客縁作りが促進でき、縁を深める「心臓部」として位置づける。
心臓部分に顧客別情報を集結しておけば会員の自宅パソコンに"ポイント情報"や"クーポン情報"、あるいは"会員ニュース"など提供することができる。
より個人的な情報を提供することができ、インターネットというサービスを通してさらなる顧客との関係が深くなる。生涯添い遂げるのも夢ではなくなる。

新収穫の予測
最後にこのようなサービス実施でどれだけの売上が期待できるか簡単な予測をしてみる。
スーパー1店舗会員数1万人、10店舗のスーパーが実施すると仮定する。計算結果は図表6-1である。
恵方巻き、母の日、父の日、土用鰻などイベント商品予約販売は20%の会員が利用、1回位当り利用金額は1500円、年間平均4回利用とする。「客数×利用単価×利用回数」で売上金額が計算できる。1億2000万円が予約販売金額になる。
取寄せ商品販売は商品予約販売モ20%の会員が利用、1回当り利用金額は2000円、年間平均6回利用とする。取寄せ販売売上高は2億4000万円になる。
ギフト販売は顧客当り平均年2回、3人に送ると仮定する。年間合計6回のギフト受注になる。ギフト注文は30%の会員が利用、1回位当り利用金額は2000円、2回6人の利用になるのでギフト販売は3億6000万円になる。
以上合計すると10店舗新サービス売上合計売上高は7億2000万円。これが会員マスタと会員のパソコンを直結することによって得られる新収穫になる。
値引きで販促するわけではないので利益率が確保できるであろう。合計荒利益額は2億3400万円となる。
利用客数の増加減少は店舗のコマーシャル次第。いつも来店いただいている会員に"今週のインターネット商品"など商品ニュースを手配りしたり、ダイレクトメールで商品を紹介したりし本業と一体となった活動が重要になる。


参考文献
『現代の経営』P・Fドラッカー ダイヤモンド社
『ポスト資本主義社会』P・Fドラッカー ダイヤモンド社
『イノベーションと企業家精神』P・Fドラッカー ダイヤモンド社
『新しい現実』P・Fドラッカー ダイヤモンド社
『フォーカス 市場支配の絶対条件』アル・リース ダイヤモンド社
『「買いたい心」に火をつけろ』ハリー・ベックウィス ダイヤモンド社
『まず、ルールを破れ』マーカス・バッキンガム、カート・コフマン 日本経済新聞社
『パーミッション・マーケティング』セス・ゴーディン 翔泳社
『創造的破壊』リチャード・フォスター&サラ・カプラン 翔泳社
『競争優位の戦略』マイケル・ポーター ダイヤモンド社
『マーケティング10の大罪』フィリップ・コトラー 東洋経済新報社
『マーケティングビッグ・ピクチャー』クリスティL.ノードハイム ファーストプレス
『シュガーマンのマーケティング30の法則』ジョセフ・シュガーマン フォレスト出版
『食品の裏側』安部司 東洋経済新報社
『トヨタ生協革命』井上邦彦 日科技連出版社
『デジタル流通革命』拙著 ダイヤモンド社
『SCORING POINTS』Clive Humby&Terry Hunt London&Philadephia
『theloyaltyguide』Volume U thewisemarketer