2 顧客政策実践の第2ステップ
ターゲッティング(射撃)

2−1 細分化市場(セグメント)に攻める

似たもの同士を類型化する仕事は、重要だが、所詮机上の仕事。類型化したなら行動に移行しなくてはならない。行動しなければ何も起こらない。
ターゲッティングは類型化された顧客グループに仕掛けること、狙い打つこと、攻撃すること、つまり行動を起こすことである。"射撃"という言葉が適切かもしれない。
顧客グループに向かって仕掛ける、撃ち放す、射撃する。待ちの姿勢では競争に勝てない時代である。

チラシのコスト
チラシはターゲットに向けて仕掛ける方法ではないが、ダイレクトメールコストと比較する意味であえてチラシコストを考えてみたい。「数撃てば誰かに当るだろう」方式の折込チラシ費用はつぎのようになっている。
駅前、街中商店街スーパーは1店舗1回当り平均2万枚のチラシをばら撒いている。1枚当り単価印刷代4円、折込料金4円で1枚当り合計8円。2万枚だからチラシ1回当り16万円の費用になる。月平均8回チラシを実施しているので、月間チラシ代金は、なんと128万円。10店舗なら月額合計1280万円の費用になっている。毎月、1280万円投資してどれだけ効果が上がっているか、常に、計算しているだろうか。計算していないとしたら過去を引きずっているに過ぎない。マンネリ、麻薬投薬のような日々の現象になっている。何の意識もなく習慣になっている。
ダイレクトメールは費用が高いとスーパーは毛嫌いしているがポイントカードを実施しているスーパーは一考する価値がある。ちょっと心を真っ白にして顧客個別に仕掛ける戦術に耳を傾けていただきたい。

ダイレクトメール費用をカバーする目標値
チラシ効果は計測不能だがダイレクトメールの効果測定は可能だ。またダイレクトメールにかかわる費用をカバーするのにどれだけの売上アップがあればよいか、目標を計算することができる。
ダイレクトメール実施の目標売上の算出方法を述べてみる。

全顧客数10万人と仮定する(標準スーパー10店舗の会員数)。セグメント1(S1)からセグメント5(S5)まで仕掛けると対象顧客数は2万1200人。全顧客へ仕掛けるなら10万人がダイレクトメール対象になる。
S1〜S5攻撃と全顧客攻撃の2つのダイレクトメール(DM)費用、それをカバーする目標売上アップを試算したのが図表3-2である。

S1〜S5セグメントへ射撃するケースは、
・対象顧客21.2%の2万1200人
・この顧客の売上構成比68%
・DM単価はがき使用で郵税込み70円
・DM費用合計148万4000円
・荒利益率25%としてDM費用148万4000円をカバーする売上アップ率は0.59%
となる。

全セグメント顧客へ射撃するケースは、
・対象顧客全員の10万人
・この顧客の売上構成比100%
・DM単価はがき50円
・DM費用合計500万円
・荒利益率25%としてDM費用500万円カバーする売上アップ率は2%
全店導入を前に、1995年9月、英国ナンバーワンスーパーであるテスコ(TESCO)は10万件のダイレクトメールを実験している。DMを送った顧客の70%が購入し、彼らの売上高は4%アップしたと報告している。
折込チラシ10店舗8回分の合計費用は1280万円と計算した。荒利益率を下げずに1280万円をカバーするためには5120万円の売上アップが必要になる。10店舗月商10億円として約5%アップがチラシ費用をカバーする目標になる。10万件DMでは2%が目標アップ率、さてどちらを選択すべきだろうか。

ダイレクトに迫る目的
"少子高齢化"、盛んに言われる流行語である。日本は世界ナンバーワンで、年々、さらに促進。人口の20%が65歳以上、15歳以下13.5%で老齢人口の比率が15歳以下をオーバーしてしまった。マーケットは確実に小売り環境に不利な方向に進んでいる。しかも大手中堅小売業が新店出店で仕掛けてくる。まさに四面楚歌、熾烈な競争時代である。小売業の未来は暗い。
先細りのシェア奪い合いのマーケットでは新規顧客を追い続けるのは得策ではない。既存の顧客、しかもよく購入してくれる中核となる顧客に神経を集中する戦略を取り入れる必要がある。パラダイムの変換である。
今小売業に求められている販売戦略は、今購入されている顧客(既存顧客)の継続購買を維持することと、彼らの購買金額をアップすることにある。ライフタイムバリュー最大獲得(長期消費枠最大獲得)、カスタマーシェア(消費枠シェア)アップが販売戦略になる。
そのためには既存顧客の週間になっている来店行動を変えること、習慣になっている購買商品を変えることに意識を向けるべきだ。それが現実の最優先すべき課題である。
どうすれば顧客の来店行動、購買態度を変えられるか。
答えは、彼らのニーズを探り、ニーズに合わせ顧客を類型化し、類型化された顧客セグメントに商品提案を仕掛け、彼らの関心を引き出すことにある。


2−2 顧客セグメントの特徴を探る
市場細分化(セグメント)する方法は2章で述べた。では「どのように攻めるのか」「効果的な方法があるか」これがつぎの大きな課題になる。
8つのセグメントへ射撃の仕方をイメージできるようデータを引っ掻き回してみた。8つの顧客グループの明細情報(670冊分の本)から特徴が見えてくるか探ってみた。
・S1(凄い客に射撃する)500人(10店舗10万人会員を前提とした人数)
ピーマン、大根、ジャガイモ、玉ねぎ、なす、キュウリは100%(支持率=100人中100人購入)の人が購入している。マヨネーズ、中華エスニック、バナナの購入は95%、肉類関係の支持率は低い。年齢が比較的高くカットスイカは45%の支持率、紅茶の支持率は40%と低いほうだ。
この人たちには「新鮮野菜」「旬野菜」の提案が考えられる。ただし、商店街立地にあるスーパーでは飲食店経営など食材仕入れとして購入している顧客が結構多い。彼らはほどほどの品質でできるだけ安い商品を購入している。たとえば、にんにくは中国産10個入りネット198円を購入している。一般家庭は青森産1個198円がほとんど。月平均10万円以上購入している顧客は食材仕入れ顧客と判断してよい。大家族か食材仕入れか見分けて仕掛ける。

・S2(毎日客に射撃する)500人
支持率100%は和風調味料、ピーマン・玉ねぎ・もやしは90%。和菓子支持率94%と顕著、ヨーグルト91%、カレーは90%の支持率。和菓子やカレーを仕掛けよう。小中学生の子供がいる家庭の食卓風景がぼんやりと見えてくる。子育てニーズが高い。

・S3(高額バスケットに射撃する)900人
S1の凄い客に似ている。違っているのはオクラ、シシトウなど小物果実類の購入支持率が高いこと。顕著な数値は、鯛は70%が購入、キムチも70%が購入している。一品豪華商品の食卓が見える。このグループはすべてのカテゴリーで購入支持率が高い。オールマイティ顧客といえる。グレードアップの商品を仕掛けたい。季節に先駆けた一品豪華商品提案が売り上げをもたらしそうだ。野菜なら"ナチュラルシーズ"野菜を提案するのも面白い。

補足)ナチュラルシーズとは
有機栽培、無農薬栽培野菜が一般的に手に入るようになった今、農作物について新しい動きが始まっている。在来種の種子にこだわった農作物である。在来種の種子とは、生物学・遺伝子学などの手を加えてない自然に近い種を使って、1つの土地で10世代以上栽培され続けてきた種のこと。

・S4(近隣献身客に射撃する)9300人
豆腐、総菜、ちくわ、蒲鉾の購入者が80%以上と高い。おかき、クッキー、みかんは85%以上が購入、カレーも80%、コロッケは60%が購入。豆腐、納豆、総菜の購入率が上位にくる。このグループのニーズは"すぐ食べられること"。食事の準備をする時間があまりなさそうだ。半加工食品、一工夫した食品の取扱や簡単料理食材、日替わり商品で仕掛けると売上アップが期待できる。

・S5(日曜客に射撃する)1万人
週1購入顧客。日曜が多い。ヨーグルト90%が購入、プロセスチーズ80%、チョコ・カップめん・スープ類・洋菓子の購入者は60%と高い。買い物商品は洋風傾向。
デザート、チーズとワインの提案、イタリアン特集食材、エスニック料理など日曜日に限り展開すると買上単価アップ、継続購入客に転換できるであろう。サンデーコーナーを作り、このセグメントのニーズの高い商品を日曜日に集中陳列すると売上アップが期待できる。

・S6(高バスケット不定期来店客に射撃する)4000人
このセグメントの商品の購入金額順を調べてみた。
豚肉スライス、ブロイラー、牛乳、豚肉切り、ヨーグルト、漬物、魚の切り身の順だった。
豚肉、肉加工品、ハムの購入者が多い。このニーズから肉関連「2パック」「3パック」などお得パック販売で売上アップを狙う。

・S7(低バスケット定期来店客に射撃する)5400人
菓子パン購入者90%でナンバーワン。和菓子85%、バナナ85%、食パン80%、ヨーグルト80%の人が購入している。顕著なのは巻き寿司45%、切り餅購入者30%が購入。
このセグメントは高齢者と独身者が特に多い。単身世帯と考えてよい。このセグメントには"小パック"の品揃えがポイントになる。

・S8(アウトサイダー・門外漢に射撃する)6万9400人
ヨーグルト56%、もやし55%、豚肉スライス48%、菓子パン48%が購入。さまざまな人がさまざまな商品を購入している。顕著なのは5キロ米を10%が購入していること。このグループは、会員だがインサイダー(味方)ではない。会員は、特売で来店する傾向が多い。バーゲンハンター、チェリーピッカーなど表現される顧客である。
特売品をリストし、ミニブックにして仕掛けることで集客、継続購入、離反防止が期待できる。


2−3 作戦準備と攻撃開始

作戦準備
理論は整った。顧客を似た者同士に細分化し、それぞれの人数と特徴を調べた。今度は、それぞれの顧客グループにどのように迫るかを準備しておかなくてはならない。
S1〜S8セグメントに対するターゲット(射撃)戦術を練り上げる。それを射撃ガイドとして社内関係者に浸透させる。この仕掛、戦術の準備なくして、カードを発行し、データをコンピュータに記録し、分析しても成果は得られない。
過去に幕引き、新たな戦術を幕開けする。幕を開けるだけではだめで、芸人が芸をしなければ観客を呼べないように、販売企画担当は企画の芸人にならなくてはならない。
データを分析だけなら人並みにできる。本当の勝負は顧客ニーズを読み解き、対応策の"実行"にある。過去と決別し改革(イノベーション)を実現するには実行しかない。
売上の68%を占めているS1からS5には、価格訴求はしない。荒利益を落とすだけで、取れる利益を取れなくなるからである。彼らの主な関心は価格ではない。品質、安心、信頼、品揃え、接客、その他サービスなど総合的なバリュー(価値)に関心がある。
価格に大きな関心がある70%近い会員(売上高構成比21%)のS8グループ顧客と区別して販売促進する必要がある。
S1〜S8まで射撃戦術を下記のように決める。
・S1(凄い客)戦術・季節の野菜、"旬"野菜、ナチュラルシーズ野菜、野菜関連商品からなる企画を戦術として数パターン準備する。
・S2(毎日客)戦術・"和菓子"シリーズ、"カレー"シリーズなど購買傾向のある商品系列で企画を準備する。
・S3(高バスケット客)戦術・"今月の逸品""食べてみよう海の幸"など豪華ショッピング企画を準備する。有料宅配サービスの提供もよい。
・S4(近隣客)戦術・曜日別惣菜日替わりカレンダー、困ったときの食卓準備用の農産・海産物の乾物シリーズ、缶詰シリーズのセット売り企画を準備する。
・S5(サンデー客)戦術・日曜の夕食を楽しく、ハレの食卓をデザインする"美味しさ"ブランドを開拓(地方の中小メーカー商品)、デザートシリーズなど数パターンの企画を準備する。
・S6(不定期高バスケット客)戦術・精肉2パック、3パック売り、ホットプレートメニューシリーズ、鍋物シリーズの企画を準備する。宅配サービスの提案も提案。
・S7(低バスケット客)戦術・小パックシリーズ準備、惣菜や弁当の日替わりカレンダーを企画し準備する。
・S8(アウトサイダー)戦術・価格訴求アイテム10品を決め季節に合わせ数点からなる"激安価格"のミニブックを準備し仕掛ける。
チラシによる特売はS1〜S8全顧客対象となり、安くしなくても購入してくれる顧客にも安売りすることになり取れるはずの利益が取れなくなるリスクがある。特売品は主にS8射撃を中心に企画する。
S1〜S7の顧客セグメントに対する販促は、よく購入されている商品のクーポンをダイレクトメールで封入し集客する。

攻撃方法 圧着はがきDMで攻める
印刷技術が発達し、個別の印刷が一つの印刷工程で印刷できるようになった。
話を簡単にするため折りたたみ4頁のはがきを例にして述べる(三つ折り6ページDMも可能)。
つぎのように設計できる。
見開き左側を"今週お奨め"ページ(裏面は会員宛名、店舗名、キャンペーン期間など印刷)、見開き右側を"次週お奨め"にする(裏面は企業広告、商品広告、イベント広告など)。
今週、次週ページはそれぞれ6つの枠で構成する。6つの枠は切り取りクーポン方式にする。つまり、今週、次週の6つの商品訴求ができる。
ダイレクトメールの合計12個(今週と次週)の枠の内容はセグメントごとに内容を変える。S1にはS1の内容、S2にはS2の内容になる。
・S1 "旬"野菜シリーズ5品とドレッシング1品5%引きなど今週と次週
・S2 お奨め今週"和菓子"6品、次週お奨め"カレー"6品特集5%引き
・S3 今週"逸品"6品、次週"逸品"6品。特典は2個購入1個10%引きなど
・S4 今週の関連購買シリーズを今週、次週と関連購買特別価格で紹介
・S5 美味しさ特集。今週と次週12品。お試し価格提供
・S6 2パックでいくら、3パックでいくらという今週、次週お得価格を提供
・S7 惣菜、弁当など小パック商品案内。小パック総菜の組合せ特価販売を提供
・S8 醤油、上白糖、飲料ペットボトルなど"激安"価格で6品案内。特売訴求はこのセグメントに対し実施する。無闇に価格を下げて他のセグメント顧客に販売する必要がなくなる。


2−4 ピンポイント射撃
8つのセグメントをサンプルにスーパーのデータから攻め方を解説した。セグメントは8つに限らず、99でもできる。セグメントは小さければ小さいほど顧客ニーズにヒットし効果や効率が高くなる。
ここで、もっと小さなターゲットに射撃する方法を述べる。会員の特定商品の購入データを活用しピンポイントでターゲットする方法である。データがあればより小さな塊に攻撃できる。塊を小さくすればするほどヒット率(購入率)が高くなり、顧客との関係も深くなる。

30のニーズを登録でき、ニーズは自在に変更できる。変更して直ぐに検索ができるようになっている。
鰻蒲焼も購入しマグロも購入する人は254人、"こだわりハム"の信州ハム購入者39人、果物をよく購入しているフルーツ族3070人、カレーをよく購入しているカレー族159人、ワイン派34人、ダイエット族117人など顧客の購買データからの結果である。顧客買い物(バスケット)データから一瞬で人数を表示する。
ダイエット族117人に"新製品"ダイエット食品のダイレクトメールを出すとしよう。
図表のダイエット族の文字がある長方形をマウスでクリックし人数を表示させ、画面下の「顧客一覧」をクリックすると顧客名が表示される。表示された顧客名をクリックするとその顧客の購入明細がでてくる。何を購入しているかわかる。117人全員にダイレクトメールを出すのであれば顧客名を取り出し宛名を印刷する。
このように顧客ニーズに仕掛けることができるので顧客の関心が高まり、購入率が高くなる。気の聞いた提案になり信頼が増し顧客との関係は徐々に強化できる。

ピンポイントニーズ ドラッグストア事例
ピンポイントニーズで仕掛ける最適の業態は専門店や百貨店である。専門店、百貨店では顧客が購入するブランドが顧客ごとにほぼ決まっている。さまざまな売場や商品を購入しているケースはほとんどない。つまり、買い回りや関連購買の少ない業態であると言える。たとえば百貨店寄り付き売場のある顧客はその売場で購入しているだけというケースが多い。
ドラッグストアデータを見てみる。

話を簡単にするため顧客を抽出する条件を"3ヶ月3000円以上"購入とした。
ダイエット派298人、アリナミン派265人、スピルリナ200人、救心派79人、プロテイン派33人、介護ニーズ878人など瞬時に人数を表示する。
ニーズに合わせて"せっせ"と手紙を書けば何も安売りのチラシを毎週新聞に折り込まなくても確実に売上アップを図ることができる。顧客ニーズに合わせ個人的な手紙を出すと売上アップに大きく貢献する。
筆者は、1996年より2年間、西武百貨店"クラブON"のマーケティングプロジェクトに携わった。7年間赤字だった同社が2年で黒字化した。他の百貨店が低迷しているのになぜ西武百貨店が好成績なのか『週間ダイヤモンド』や『AERA』に記事が掲載された。
「どん底だからこそ生まれた究極の知恵」「手紙でお客を囲い込め」「広告を減らし、買い物客を調べ上げ、手紙をせっせと書く。こんな面倒なことをやってみたら、大赤字だった西武百貨店がよみがえった」。AERA 1998年11月9日号の見出しである。

2−5 企画の試算
ポイント還元の現状
小売業が発行しているカードは会員になっていただくためにポイント特典を与えているのが一般的である。そのためポイントカードと一般にいわれている。カード会員すべてにポイントがたまる。
これから述べる前提として、ポイントは100円購入につき1ポイント、1ポイント1円の還元率とする。
巷で行われているポイント還元は、500ポイントたまったら500円割引レシートをPOSレジで発行したり、店舗入り口に設置されたキオスクと呼んでいる機械を使って顧客自身が割引券を発行して還元する。
ポイントが現在いくらたまっているかはレシート上に印刷したり、キオスクで表示できるようにしている。会員は、買い物に行けば現在何ポイントたまっているかわかるようになっている。一部の専門店や百貨店はポイント残高をダイレクトメールでお知らせしたりしている。

3ヶ月商品券試算
英国ナンバーワンスーパーテスコは、年4回、ポイント残高を計算し、バウチャー(一種の商品券)をダイレクトメールで送っている。
1995年5月実施した500万通のダイレクトメールは、1400万ポンド(1ポンド200円換算で28億円)のバウチャーを発送した。このときの店舗数は600店だった。
テスコのポイントプログラムは1ポンド1ポイント、1ポイント1ペニーの還元となっている。バウチャー(商品券)同封ダイレクトメールは3ヶ月に1回、3ヶ月150ポイント(3ヶ月3万円以上)以上購入した会員に送っている。
バウチャーの同封と同時に27パターンに設定したライフスタイルクーポンを年4回送る。年4回のクリスマスプレゼントと表現している。このイベントは消費者に受け入れられ、1995年2月、ナンバーワンシェアだった同業のゼンズベリーを追い越した。
テスコと同じようなポイント還元イベントをするとしたらどうなるか、8つのセグメントで試算してみる。
3ヶ月ごとに500ポイント(500円)以上を獲得できた会員にのみダイレクトメールで商品券を送る。残高ポイントは次回500ポイントなるまで保留する。以上を前提にする。

買上金額をベースにS1からS8の3ヶ月ごとの商品券枚数を計算してみた。
・S1 月平均購入7万円のお買上、3ヶ月21万円。獲得商品券500円券4枚
・S2 月平均購入4万円のお買上、3ヶ月12万円。獲得商品券500円券2枚
・S3 月平均購入6万円のお買上、3ヶ月18万円。獲得商品券500円券3枚
・S4 月平均購入2万5000円のお買上、3ヶ月7万5000円。獲得商品券500円券1枚。つぎの3ヶ月目は残高を含めて2枚。3ヵ月ごと1枚、2枚と言う循環になる。
・S5 月平均購入1万5000円のお買上、3ヶ月4万5000円。最初の3ヶ月商品券の獲得はない。6ヵ月後に1枚の商品券。
× S6 月平均購入1万3000円のお買上、3ヶ月3万9000円。こちらも6ヶ月後1枚獲得。
× S7 月平均購入7000円のお買上、3ヶ月2万1000円。9ヶ月目で1枚の商品券が届く。
× S8 月平均購入6000円のお買上、3ヶ月1万8000円。1年1回1枚の商品券が届く。
S1〜S4まではプレゼントの額は異なるが、大体、テスコが表現している年4回のクリスマスプレゼントになる。日本なら年4回のお年玉と言える。S8は、残念だが、年1回のお年玉だ。
500円になったらPOSレジで割引券を自動的に発券するのは習慣化してしまい、徐々にインパクトがなくなる。3ヶ月1回、ダイレクトメールで自宅に配達するほうがより強いイベント感を演出でき、より顧客の感情を揺り動かすことができる。
ダイレクトメール企画の試算
「ダイレクトメールを全員に送る」「費用はどうするんだ」「そんな費用がかかることはできない」と検討すらしない。本当に費用がかかりダメな方法なのか検討してみる。
チラシは、量によるが印刷1枚4円、折込4円、合計8円。封書ダイレクトメールは封筒や印刷物の準備に100円、郵税は割引なしで80円、合計180円。チラシの約23倍のコストになる。
S1〜S4顧客グループ1万1200人に1回目の商品券をダイレクトメールで送ると仮定する。その場合のコストを吸収する売上高はいくらか計算し売上アップ目標を設定する。
1万1200人に封書ダイレクトメールを発送する。費用はおよそ200万円(180円×1万1200人)。売上アップ目標は図表3-7になる。
・荒利益率25%と仮定
・DM費用200万円(10店舗対象顧客数)
・200万円カバーする必要売上高800万円(200万円÷荒利益率)
・月商10億円(10店舗)
・S1〜S4の売上構成比45.2%で売上高4億5200万円
・必要売上高800万円はS1〜S4売上4億5200万円の1.8%
つまり封書ダイレクトメールで1.8%の売上アップを達成できればトントンになる。
1.8%アップは封書ダイレクトメールの企画次第になる。商品券で集客すると同時にクーポン商品お知らせや関連商品の案内を同封する仕掛で売上アップを図る。
クーポンを同封する場合、クーポン投資額を決めて、この投資金額を荒利益率で除算し、同じような方法で売上アップ目標を決める。
チラシは一過性でしかない。年4回のダイレクトメールは徐々に顧客の関心を呼びイベント化する。つまり徐々に顧客との縁が深まり、消費枠シェアアップになり、顧客離反が下がり、長期消費枠の拡大につながる。

S8向けゲリラDM試算 
約70%を占めるS8顧客に対するダイレクトメールを実施した場合の、売上目標を試算してみる。この客も何とか"わが店"の顧客に変えたい。アウトサイダー(門外漢)からインサイダー(味方)に変えていく努力をする。
・S8顧客数は10店舗会員数10万人の69.4%、6万9400人。
・郵税込みDM単価50円(はがき形式)
・DM費用約347万円
・荒利益率25%を仮定した
・347万円をカバーする必要売上高1388万円
・S8売上構成比22.1%、売上高2億2100万円
・1388万円は2億2100万円の6.3%
しかし、これはダイレクトメール費用だけなので正確な目標にならない。もっと厳しく目標を計算してみる。
ダイレクトメール掲載商品の2品(たとえば醤油、上白糖)の値引き額合計100円とする。ダイレクトメール発送S8顧客の50%が購入すると仮定する。
値引き金額は総額は347万円になる(値引き100円×6万9400人×購入率50%)。この費用はDM費用と同じ数値。値引き費用をカバーする売上高は1388万円になる。売上アップ目標は6.3%。ダイレクトメール費用のカバーを加えると目標売上アップ率は12.6%になる。
S8顧客に単品2品を100円引きするゲリラ的なダイレクトメールを仕掛け、12.6%の売上アップが達成できるか一度はテストしてみたい。