1 顧客政策実践第1ステップ
掘り下げ セグメンテーション実践


1−1 膨大な量の購買データ

データのサイズ
スーパーマーケット、一体全体、どれだけのデータがあるだろうか。
POSから毎日、毎分、お客様の購買データがダムから流れ落ちる水のように店事務所のコンピュータ(最近はサーバといわれる)にデータが書き込まれる。
会員番号(誰が)、何日何曜日の何時何分何秒の時間(いつ)、13桁や8桁など商品コード、商品名、数量、金額、レジ担当者データなど目に見えないもの凄い速さで書き込まれる。
普通のスーパーの1店舗データ量は1日平均少なくて2万件。1ヶ月60万件、年間720万件。その店舗データは店から毎日深夜に本部コンピュータに収集される。10店舗のスーパーなら7200万件のデータが、何の音も無く、本部コンピュータに書き込まれ、蓄積される。
ページ数で推計してみる。1ページに35行書き込まれるとして日2万件のデータ量は571ページ。1ヶ月約1万7000ページ、年間約20万ページになる。300ページの本なら約670冊の本になる。100店舗なら1年間データは6700冊の本に相当する。
1件1秒でデータ件数を数えるとする。1日のデータ2万件を読み上げる時間は333分。時間にすると5.6時間。1ヶ月のデータ量を読み上げるのに1万時間、日数にすると417日かかる。これが1店舗分のお客様データである。

補足)店の購買明細データ(バスケットデータ)は、通信回線料金が高くつくという理由から本部に送らない小売業もある。収集しなければ「誰が」「いつ」「何を」購入しているかの分析はまったくできない。データを集め、顧客の買い物を見てみようとする意識も認識もないケースである。

誰でもできるデータ活用
この膨大な顧客データを活用している小売業は非常に少ない。データを収集しているのに活用していないのが現実である。活用しない理由3つをあげてみる。
1つは、そもそも数値に隠されている意味を読み込んで状況を把握しようとする意志がないという理由。
2つは、データが多すぎてじっくりデータを見る時間がないという理由。
3つは、はじめて経験するデータなので「何を」みて「どのように」理解し「どのように」行動すればよいか分からないという理由。
従業員の意識の低さは会社の意識の低さが原因になっている。会社全体が顧客に対応する戦略を明確にしておらずあやふやな状態でデータを集めているに過ぎないからである。何が何でも顧客戦略に向かう姿勢を高らかに主張する必要がある。
データ活用は難しいことではない。はじめて自転車に乗ることにたとえてみる。
自転車に乗れるようになるには朝夕お父さんやお兄さんの力を借りて一生懸命努力する。転んでも、転んでも何度も練習を繰り返す。この最初の努力がどうしても必要になる。
あるとき不意に乗れるようになる。乗れるようになれば後は簡単だ。いつでもどこでも久しぶりでも簡単に乗れる。
重要なことは「自転車に乗りたい」という強い願望である。同じように「データを読み込めるようになりたい」という願望があればデータを使いこなせるようになる。
データマイニングなど難しい統計分析手法は必要がない。電卓で検算できるような単純な情報を用いるだけで十分である。

補足)
クラスター分析、相関関係分析(アソシエーション)、時系列分析など統計手法を使った分析を主張する方もいるが理解に苦しむデータ活用について現実的には避けたほうがよい。
・クラスター分析 有効な分類方法がわかっていないデータをグループ化するための切り口を自動的に探し出す方法。グループ化した塊をクラスター(葡萄の房)と呼ぶ
・相関関係分析 データ同士の相関関係の強弱を見る手法。関連性が高いパターンを抽出する。 
・時系列分析 一定時間を置いて発生したデータを組み合わせや順序といった関係を調べる手法。商品Aを購入した顧客はつぎに商品Bを購入することが多いといった時系列を含む購買パターンをモデル化できる。

1−2 似たもの同士集め セグメンテーション

セグメンテーションとは、教科書の説明では"市場細分化手法"と訳されている。相対的に同質なニーズをもった顧客集団に分割し、ターゲット(的)とすべき市場認定を行う概念(難しいね)。細分化することによってマーケットの実態がよりよく見えてくる。このような意図から重要なマーケティング概念になっている。
"似たような"好奇心とか、"似たような"趣味とか、"似たような"行動をとるとか、"似たような"ものを購入するとか、何か基準を用いて大勢の顧客をより小さなグループに分解する。分解することのよって顧客の全体の"なぞ"が解けて見える。

4つの顧客類型
顧客の購買金額と来店回数という単純なデータで顧客を類型化する手法を説明する。顧客の購買行動は全員一緒ではなく、4つに分けても異なっているということがわかる。
ごく普通のスーパーの1年間バスケットデータを分析してみる。
よく来店するか来店しないかをひとつの基準にする(Y軸)。もうひとつの軸を購入金額が多いか少ないかの軸にする(X軸)。この2つ軸で4つのグループができる

(1)バスケット金額高く、回数多いグループ(多頻度来店高購買顧客)
(2)バスケット金額高く、回数少ないグループ(低頻度来店高購買顧客)
(3)バスケット金額低く、回数多いグループ(多頻度来店低高購買顧客)
(4)バスケット金額低く、回数少ないグループ(低頻度来店低購買顧客)
バスケットはスーパーで買い物するときに使用する商品をピックアップするのに使用するカゴ。バスケット金額はレジを通った時の「お会計は○○です」という1回の買い物合計金額である。
4つの顧客グループの特徴を以下に説明する。

(1)多頻度来店(月平均来店日数15回以上)高購買(月平均2万円以上など)に属する顧客グループ
このグループ顧客の購買余地はあまりない。
たとえば、家計が食費に月6万円消費するとして、わが店で5万円買ってくれておれば残り1万円が購買余地になる。購買余地が高いか低いかによって販売チャンスが想定できる。
このグループに属する顧客は購買を増やしてくれるチャンス余地は低いが貢献度の高い常連様であり、しっかりつなぎ止めて置く必要がある。
購買余地は低いが毎月たくさんのお金を継続して使っていただく顧客であり、ライフタイムバリュー(長期消費費枠)の維持が狙いになる。このグループに属する顧客は離反しない傾向があり、しっかりつなぎとめておきたい。
事例を見てみる。商店街のど真ん中に立地するスーパー。ポイントカードを始めた初年度100万円以上購入した顧客21名は、4年間、一人離反したのみで残り全員買い続けている。有難い顧客である。

(2)低頻度来店(月平均来店日数8回以下など)高購買(月2万円以上)に属する顧客グループ
この顧客グループの購買余地もあまり多くはない。時間的に週末、日曜日だけ来店し、1週間分の食材をいっぺんに購入している傾向がある。共働き家計の傾向があり購買力があり、ターゲット(狙う)する意味がある。購買日数やバスケット金額を条件にして顧客を抽出し、より絞り込んで、仕掛ける。
商店街スーパーの顧客を抽出してみる。
・購買日数月平均5回〜8回と比較的来店日数の少ない顧客 990人
・1回の買い物金額(バスケット単価)が2000円以上と高い顧客 604人
・両方の条件に該当する低頻度で高バスケット金額の顧客 161人
バスケット単価が高いが来店に数の少ない顧客を抽出し、もう1日来店してもらう働きかけを行なう。狙い目の顧客といえる。

(3)多頻度来店(月平均来店日数15回以上など)低購買(月平均2万円未満)に属する顧客グループ
このグループは2種類のグループに分けられそうだ。ひとつは単身家族(高齢者単身や独身)、もうひとつは買い回りグループ(生鮮食品は買わないがパンはよく購入するなど)。単身世代の購買余地は少ないと想定できる。チャンスは二つ目の買い回りグループになる。顧客を抽出してみる。
・月平均来店日数15回以上と多い顧客 320人
・バスケット単価500円〜1000円と低い顧客 12万8000人
・来店日数多くバスケット単価が低い顧客 26人(来店15回以上の8.1%)
この26人にあと1品販売する企画を仕掛ける。

(4)低頻度来店(月来店日数2回以下)低購買(月5000円未満)に属する顧客グループ
このグループは"アウトサイダー"(部外者、よその人、門外漢)、あるいは"特売ハンター"と言える。ポイントカードをもった会員でありながら少ししか購入しない圧倒的に多い顧客グループである。このアウトサイダーをインサイダーにしたい。
顧客を抽出してみる。
・来店日数2回以下客数 1561人 全客数3670人の42.5%
・月5000円以下と購買金額の低い顧客 1600人で全客数の43.6%
・両方(来店日数2回以下で月5000円未満) 1270人で全客数の34.6%
来店日数月2回以下、月5000円以下の購入顧客は34.6%いる。
このアウトサイダーは購買余地がかなりあるので味方に取り込みたい。チラシは不特定多数媒体でありインサイダー(味方)にする仕掛としては効果がないので、単品の
"激安クーポン"などダイレクトメールで集客するゲリラ戦略を採用するとよい。

8つの類型(セグメンテーション)
4つの顧客類型で基本的な考え方を理解してもらえたと思う。もう少し複雑にしてみる。2倍の8つのセグメンテーションを行なう。
単純だがかなり有用なセグメンテーション基準として購買回数(F)、購買金額(M)、購入年月日(R)をベースにした方法を中心に述べる。Fは累計来店日数(FREQUENCY)、Mは累計購入金額(MONETARY)の略称である。

Sはセグメント略号、「 」(かぎカッコ)内は筆者の顧客イメージからの命名。数値はスーパー4店舗の実測値である。

S1:週5回以上来店・月5万円以上購入する「凄い購入顧客」
客数構成比0.5%、売上構成比4.8%、バスケット単価2790円
S2:週5回以上来店・月5万円以下1万円以上購入する「毎日来店顧客」
客数構成比0.5%、売上構成比2.3%、バスケット単価1575円
S3:週5回以下2回以上来店・月5万円以上購入する「バスケット高額顧客」
客数構成比0.9%、売上構成比7.1%、バスケット単価3819円
S4:週5回以下2回以上来店・月5万円以下1万円以上購入する「近隣献身顧客」
客数構成比9.3%、売上構成比31.0%、バスケット単価2090円
S5:週1回来店・月1万円以上購入する「サンデー来店顧客」
客数構成比10.0%、売上構成比22.8%、バスケット単価4809円
S6:週1回以下来店・月1万円以上購入する「不定期来店高バスケット顧客」
客数構成比4.0%、売上構成比3.8%、バスケット単価4294円
S7:週5回以下1回以上来店・月1万円以下購入する「定期来店低バスケット顧客」
客数構成比5.4%、売上構成比4.9%、バスケット単価1209円
S8:週1回以下来店・月1万円未満の購入する「買い回り顧客」
客数構成比69.1%、売上構成比22.1%、バスケット単価2906円
「サンデー来店顧客」はすべての人が日曜に来店するとは限らないが日曜日に来店している傾向が高い。
中心となっている顧客の売上貢献度を調べてみる。
凄い顧客からサンデー顧客までの5セグメント(S1〜S5)の合計客数構成比は21.2%。この顧客で全体売上高の68.0%になる。月平均1万以下の低頻度購入顧客を含め、週1回以上を中心のお客様を合計すると客数合計は26.6%。その顧客で全体売上の72.9%になる。ここが店として仕掛ける中核のお客様になる。

99の類型
8つのセグメンテーションをさらに細かく99グループにしてみる。数は約10倍になるが考え方は8つのセグメントと同じで単純である。
購買日数(F)、購買金額(M)をそれぞれ9つに分ける。数値事例は住宅街の標準的なスーパー、1年間の顧客購買データから導き出したものである。
F(月平均来店日数)の基準はつぎの通りに設定。
・F9  週6回以上(週平均6回以上来店する顧客)
・F8  週5回(週平均5回来店する顧客)
・F7  週4回(週平均4回来店する顧客)
・F6  週3回(週平均3回来店する顧客)
・F5  週2回(週平均2回来店する顧客)
・F4  週1回(週平均1回来店する顧客)
・F3  2週間1回(2週に平均1回以下来店する顧客)
・F2  4週間1回(4週に平均1回来店する顧客)
Mの基準はつぎの通り設定。
・M9  月平均5万円以上(月平均5万円以上購入する顧客)
・M8  月平均3万円以上(月平均3万円〜5万円未満の購入顧客)
・M7  月平均2万円以上(月平均2万円代の購入顧客)
・M6  月平均1万円以上(月平均1万円代の購入顧客)
・M5  月平均5千円以上(月平均5千円〜1万円未満の購入顧客)
・M4  月平均3千円以上(月平均3千円〜5千円未満の購入顧客)
・M3  月平均2千円以上(月平均2千円〜3千円未満の購入顧客)
・M2  月平均1千円以上(月平均1千円〜2千円未満の購入顧客)
・M1  それ以下(月平均1千円未満の購入顧客)
以上のF(来店日数)とM(購買金額)をあわせると図表2-3のような縦横で囲まれたマトリックス表になる。FMそれぞれ9基準なので81個の枠(セル)があり、F合計、M合計をあわせると99個の枠で構成される。つまり、99個のセグメントになる。
それぞれの枠内の数値は基準に合致した顧客の数になる。
月5万円以上購入で週6回以上来店されている顧客は27人。全体客数に対する構成比でこのお客様は全体顧客数の0.2%になる。
F数値が高くM数値の高い枠に入る顧客は常連客、贔屓客、お得意様であり、個別の販促を仕掛ける中核のお客様になる。
逆に、月平均購入1000円以下、来店日数4週1回以下(つまり1ヶ月1回以下の来店)の顧客(カード会員)は全体の約35%、4737人。この顧客は販促を仕掛ける中心の顧客ではない。

1−3 買上金額順位による顧客類型化
1位100位リスト
顧客データ活用の指導で誰もが興味をもつ分析情報がある。
購入金額順に1位から順に顧客を並べる「上位100人リスト」を指導先でよく提示する。顧客の個人別購入成績表なので、もっともわかりやすくもっとも人気のある情報である。この情報100人中何人知っているか質問すると2〜3名知っている程度でほとんど知らない。「どうなっているんだ」との思いで唖然とする。自分たちのもっとも重視すべきお客様なのに知らないし、知ろうとする意思もない。ただ単にリストを眺めるだけで会議を終わると元に戻ってしまう。「お客様第一主義」など口先だけの話になっている。

1%顧客
客数が多い場合、デシル情報で満足できないケースがある。よく用いる分析で1%顧客抽出を行なう(百分の一分析)。
スーパーマーケット購入上位1%(100分の1)のとんでもなくよく購入する顧客の売上構成比は10・5%。年間個人別購入をみると、120万円以上がトップ顧客、100万円以上購入客数は14人、90万円以上9人いる。
120万円トップ顧客は、もっとも購入していない顧客1237人分の購入に匹敵する。一人で1237人分購入していることになる。
郊外型百貨店上位1%で顧客の売上構成比は15.0%。トップは年間350万円。200万円以上4人。100万円以上が31人。トップ購入客の350万円は、購入ビリから数えて4858人分を購入している。
半年の数値で調べた結果であるが、都市百貨店、1000万円以上8人、トップは半年で3000万円以上購入している。500万円以上購入のお客様は63名いる。
東京の都市百貨店。上位1%顧客で販売の20%となっていた。これまで経験した上位1%でもっとも高い売上構成比だった。
ドラッグストア、上位1%で売上構成比13.0%。トップは年間90万円。50万円以上購入客数は4人。トップのお客様の購入額90万円は、ビリから数えて2349人分の売上になっている。
このもっとも重要な1%顧客にどのような感謝をしているだろうか。何もしていないのが現実のようだ。その人は誰かを「知りたい」という意識もなく、感謝のために「お礼訪問」する気もない。
毎日、ただ流されるまま、業務をこなし、過去の成功体験を頼りに、改革意欲もなく、寝て起きて、会社に行き、帰って、また寝るという日常を過ごしている。毎日同じ繰り返しである。

デシル別顧客類型
デシル分析は統計分析の手法でデシルは10分の1という意味である。
たとえば、買上日数順(F基準)とか買上金額順(M基準)、あるいは最新購入日順(R基準)に顧客の実績を並べ替え(ソート)、上位から10個に分けて分析するもっとも単純なセグメント方法である。


1ヶ月の購入客数は2万3671人、売上合計は3億5500万円。デシルにすると1デシルの客数は2367人になる。このセグメントの売上高は1億3700万円、全体売上高の約39%になる。10%で39%の売上ということを示している。上位30%(デシル3まで)の売上累計構成比は70%。デシル1の顧客当り金額は5万8070円。最下位デシルの顧客当り金額833円の69.7倍になる。全顧客月額顧客当り単価1万5023円に対しても3.8倍の購入をしている。このデシル分析から見ても顧客は皆同じではないことがわかる。回数当り金額は顧客がレジを通過した場合のバスケット単価。デシル1は1回当り約8000円。デシル10は1回当り736円とかなり低い。
デシルは10個に分ける。
大勢過ぎるなら50個にすれば顧客グループ当り473人、100個の顧客グループにすればグループ当り237になる。より小さく分ければより小さなグループでの顧客抽出が実現する。
期間も、たとえば1ヶ月、または半年、または1年な分析期間を決めて顧客を特定する単純明快、シンプルな分析方法である。

1−4 購買商品カテゴリーによる顧客類型化
各店の購買記録は1日571ページ、1ヶ月約1万7000ページ、年間約20万ページ、300ページの本にたとえると約670冊の本になる。
この670冊の本にまだまだ宝となる分析可能なデータが蓄積されている。
バスケットデータの蓄積なので「誰が」「いつ」「何を」「どれだけ」購入したかすべて記録されている。
その気になりさえすれば「おいおい本当かよ!」と驚き、心臓どきどき、脳はかっかと熱くなる。すごいことがわかる。しかし、「知ろう」とする気がなく「知ってどうする」という反発、「データは過去を示すに過ぎない。信じると火傷する」という乱暴な発言など過去から決別できずにいる悲しい現実がある。経営トップは早く目覚めなくては新しい販売手法の開拓はできない。

カテゴリーセグメント
カテゴリーとは、一般的に、種類、部類、部門の意味。小売業界では、商品分類の概念として用いる。
通常、野菜とか鮮魚、精肉を部門とし、部門のサブ分類としてカテゴリー分類を用いている。標準分類というものはないので、マーケットを調査しやすいように分けておくと便利だ。ただなんとなく、あるいはPOSメーカーが提示した分類で安易に分類するのではなく、顧客ニーズや需要実態が理解しやすくなるように慎重且つ充分に検討を重ねて自社の分類を決定する。
たとえばスーパーの分類で酒は、部門として独立。酒税が違うからと言った視点ではなく(税別はマーケット分類ではない)、需要や顧客嗜好が見えるような分類する。カテゴリーに日本酒、ビール、焼酎、ワイン、その他雑酒とする。さらに、サブカテゴリーとして、たとえばビールならばら売りとケース売りに区分、さらにキリンビール、アサヒビール、サッポロビール、サントリービール、その他ビールとしておくと、毎日・毎週・毎月のビールバラ売りのシェア変化を瞬時に分析できる。

スーパーマーケットのヘビーユーザー(多頻度利用)
1店舗データ670冊分の本という顧客データからもっと顧客ニーズに迫り、もっと狭いセグメントに細分化し販促する方法がある。よりピッタリの顧客ニーズに合わせれば販促のヒット率が高くなるからである。ベビー用品をよく購入する顧客は繰り返しベビー用品を購入する傾向がある。この意見に反論する人はいないだろう。
1店舗1年間のバスケットデータから購入日数(F)と購入金額(M)の基準で商品別の多頻度高額購入顧客(ヘビーユーザー)を取り出してみる。
大分類(部門)や中分類(カテゴリー)、小分類(サブカテゴリー)を選択してFM分析を実行する。

・刺身 平均週2回以上購入し月平均2000円以上購入するヘビーユーザーは89人いる。月1000円購入する人を入れると292人。刺身ニーズがあり刺身を販売するもっともチャンスの高い顧客セグメントと言える。
・パン 平均週2回以上購入し月平均2000円以上購入するヘビーユーザーは207人いる。月1000円購入する人を入れると776人。
・日本酒 平均週2回以上購入し月平均2000円以上購入するヘビーユーザーは41人いる。月1000円購入する人を入れると89人。
・デザート 平均週2回以上購入し月平均2000円以購入するヘビーユーザーは46人いる。月1000円購入する人を入れると287人。
・米 平均週2回以上購入し月平均2000円以上購入するヘビーユーザーは158人いる。月1000円購入する人を入れると233人。
・洋酒 平均週2回購入し月平均2000円以上購入するヘビーユーザーは43人いる。月1000円購入する人を入れると97人。
・牛乳 平均週2回以上購入し月平均2000円以購入するヘビーユーザーは97人いる。月1000円購入する人を入れると404人。
・アイスクリーム 平均週2回以上購入し月平均2000円以上購入するヘビーユーザーは23人いる。月1000円購入する人を入れると111人。
・ビール 平均週2回以上購入し月平均2000円以購入するヘビーユーザーは95人いる。月1000円購入する人を入れると170人。
このようにカテゴリーまたは特定の単品を条件として膨大なデータのなかからもっともニーズの高いヘビーユーザーを瞬時に見つけることができ、購入している商品の関連商品をピンポイントで販売を仕掛けることが可能になる。

ドラッグストアのヘビーユーザー(多頻度利用)
この5年、急成長したが早くも成熟市場に突入、激戦模様だ。薬剤師の争奪戦も夜な夜な行なわれている(薬剤師の引き抜き)。薬剤師がいなければ新規出店ができないからである。2009年夏から実施される薬事法改正でコンビニエンスストアの大衆薬販売が本格化すれば、さらに激烈な戦いが強いられる。激戦で勝ち残るためには顧客にピンポイントで販売を仕掛ける仕組みを早く準備したい。
ドラッグストアの顧客バスケットデータを見ていると、目的買いが多勢で、買いまわりはゼロに近い。
化粧品だけ、米だけ、ビールだけ、ベビーケアとベビーフードのみ、風邪を引いたから風邪薬だけといった購入傾向が多い。ついで買いは、即席食品、日用品雑貨といったところ。バスケット単価はかなり低い。サプリメントや大衆薬など高粗利益商品販売で稼ぎ、商売が成り立っている。販促は毎週のチラシ、あるいはポイント倍セール。ドラッグストア業界流行の販売政策だ。
ドラッグストアのヘビーユーザーを探ってみる


データは、住宅地近くの4店舗1年間のバスケットデータからの分析である。スーパーと違って頻繁に買い物する業態ではないのでF基準は月平均にしている。
・ベビー用品 月1回以上来店月平均5000円以上購入する(年間6万円以上)ヘビーユーザー160人、月3000円以上加えると385人。ベビー関連商品推奨のターゲットになる。
・ダイエット商品 月1回以上来店月平均5000円以上購入するヘビーユーザー8人、月3000円以上9人。合計17人。
・シルバーケア 月1回以上来店月平均5000円以上購入するヘビーユーザー81人、月3000円以上109人。合計190人。
・サプリメント 月1回以上来店月平均5000円以上購入するヘビーユーザー5人、月3000円以上19人。合計24人。
・肩こり筋肉痛 月1回以上来店月平均5000円以上購入するヘビーユーザー6人、月3000円以上28人。合計34人。
このように特定カテゴリーの常用者を抽出することが簡単にできる。抽出された顧客に関連商品を薦めることで来店を促進しもっと購入金額をアップさせることができる。顧客をまったく意識せず不特定多数にバーゲン品をチラシで販売する販促方法とはまったく違う販売方法である。この販売方法に目覚めて実施しているドラッグストアを耳にしたことはない。

1−5 買い回り行動による類型化
どこの売場とどこの売場をよく利用するか。どの商品とどの商品をよく購入する傾向があるか。関連購買という視点を用いて顧客をグループ化(セグメンテーション)する方法がある。関連購買分析とかバスケット分析とかいわれる方法である。

百貨店買い回りセグメンテーション
都市型百貨店6ヶ月顧客明細データを分析してみた。
・同じ係(婦人服係とか子供用品係など)で半年間に3回以上購入した顧客は28.4%
・同一売場(係をさらに細分化したコーナーなど)で3回以上購入した顧客は14.7%
・ファッション売場で寄り付き売場のある顧客は30.1%
・寄り付き売り場のない顧客は85.3%
・百貨店の核である「婦人服」「化粧品」「靴またはバック」のうち1ヶ所しか購入していない顧客は40.3%
・2ヶ所利用顧客は21.5%(買い回り)
・3ヶ所利用顧客はわずか3%(買い回り)
・化粧品売場で購入する顧客が催事(バーゲン)で購入した顧客5.1%
・インナー(下着)売場を利用している顧客は8%。この顧客は複数の売場を利用している
これらは利用売場データからの類型化作業である。条件を定めて明細データを引っ掻き回すことによって特定購買の顧客をグループ化できる。
ラルフローレン、POLO、コムサデモード、マックスマーラ購買客が主にどの売場に流れるかを分析してみたら喫茶利用者が9%といちばん高かった。他の売場利用は5%以下である。つまり、ブランドを利用する顧客は買い回り現象はほとんどない。
昔ながらの百貨店戦術。最上階の催事場に顧客を集め、帰りに階下のプロパー売場で購入していただこうとする「シャワー効果」を狙った販売方法は今やほとんど効果がないことをデータ分析が語っている。催事利用者が階下で買い物する数は圧倒的に少なくなっている。

バスケット分析によるセグメンテーション
ある商品を購入したら他の商品で何を購入する傾向が高いかを、膨大なデータから調べて取り出す方法がある。
この分析方法で7月土用鰻の季節。「鰻と何が同時に購買されるか」が命題になる。
7月17日〜30日の14日間で鰻串焼き、鰻蒲焼、鰻長焼きを購入した人を取り出し、鰻を購買した顧客は同時に何を購入しているか調べてみた。
図表2-7は、鰻を購入した人は同時にどんな漬物を購入しているかを調べてみたものだ。駅弁の鰻弁当には奈良漬が添えてある。昔から鰻には奈良漬けという習慣があるが現実同じだろうか。
・指定した鰻を購入した顧客は購入客数705人。全体の13.5%
・奈良漬け購入者は34人で全体の0.65%
・鰻購入者で奈良漬け購入者は9人。両方の購入者は全購入者のたった1.28%
・ピリ辛らっきょうと鰻の同時購買(併倍率)は3.12%でこちらのほうが奈良漬より高い
・リフト値最高値はスタミナ白菜の3.96
奈良漬は思ったほど併売されていない。
リフト値とは、それ自身で購買されるより関連して薦められる方がよく売れると言う意味を表す数値である。
スタミナ白菜のリフト値3.96は、スタミナ白菜単独で購入するより鰻との併売で薦めるほうが4倍売れると言う意味になる。鰻のそばにスタミナ白菜を関連陳列するとよく売れるということを示す数値である。

補足)
この情報は関連陳列意識のない店の売場データである。もし奈良漬けを関連陳列していたらもっと違った数値になったであろう。「鰻の季節に何を売るか」「鰻はなぜ夏に売れるか」。顧客のイメージは"夏バテ"、"スタミナ"、だろう。上記分析で"スタミナ白菜"のリフト値が高い理由がわかる。