『U理論』 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
C・オットー・シャーマー著 英治出版 570ページの大著
 

『学習する組織』ピーター・センゲ、『シンクロニシティ』ジョセフ・ジャウォースキーらと
共に行動している組織研究者たちの一人。前回紹介の『出現する未来』で対談している1人。
出現する未来はU理論で詳細に語られている。

筆者は、現在の対応は過去から学んだ自分の意識で対処療法的に対応している。
この方法では、複雑化するグローバル社会へ適切な対応はできないと主張。
過去にとらわれた意識での対応方法を「ダウンローディング」と名付けている。

Uの文字の左側を下る。
現在持っている意識(過去の経験)ダウンロードから現在の意識の
「保留・棚上げ」して静かに「観る」、さらにUを下りて瞑想し「感じ取る」、
そしてUのそこで内側の源(ソース)から湧き出るものを形成する。
深く考え、感じ、瞑想し、違う自分を意識する。

そしてUの文字の右側を上る。
今度はUの文字の右側を上る。プレゼンシングした構想を結晶化する、
つぎに結晶化した意識・考えをプロトタイピングする。本格的な実践の前に、
邪魔が入らない場所で実験する。
筆者は「小宇宙」と定義。速く、数多く失敗することで成功が早くなる。
プロトタイプが成功したら組織の全体で実践する。

Uの左側を下り、右側を上る。
「深く」聞くこと、過去の経験・意識を保留するためには3つの条件が必要であると
オットーは述べている。

・開かれた思考(マインド)
自分の意見に固守せず、先入観を超越し、他人の意見を受け入れる、
自分の判断は保留する。
(かなり難しく、訓練がいる。会議で議論されていることをよく考えていただくと
以下に開かれた思考に程遠いかがわかる)

・開かれた心(ハート)
思考だけでは行動にならず、行動するためには「こころ」で感じ、覚醒できなければならない。
今の意識を転換する、視座を変える、認識の生じる場を別のところにおくと述べている。
(一歩下がって、瞑想して、自分が抱いている意識を捨て、感じる)

・開かれた意志(ウイル)
「どうやっていいのか分からないが、これは私がやらなければならないことだ」という
感覚として表れることが多い。「とてもできそうもない」取組みに「身を委ねる」心境、
「自らの使命を知る」こと。
古い自己を手放し、出現しようとしている真の自分を受け入れる。

U理論、Uを下り、Uを上る実例として紹介している医者と患者の実例。
1999年2月の肌寒い土曜日。インタビューを受けた患者と医師全員を招き、
小学校で一日かけて感想や意見を聞く会合を開いた。90人が出席。

会合の最後に患者と医師の関係をレベル1か、レベル2か、レベル3か、レベル4か、
参加者に大きな氷山のような一枚の絵にシールを貼ってもらう。
「現在の医療システム」に青色のシールを、
「将来あるべき医療システム」に白色のシールを
患者と医師、全員に貼ってもらった。
・レベル1 悪いところを診断して治療する(修理する、ダウンロード)
・レベル2 医者が病気にならない正しい指示をあたえる(治療)
・レベル3 生活や生き方に対する考えを述べ、患者に内省を即す(コーチ、ダイアログ)
・レベル4 患者を尊重し、介助する、助産師の役割をする
青色シールはレベル1、レベル2に集中。白色シールはレベル3、レベル4に集中。
つまり、今やっている医療はレベル1、レベル2.。
患者も医師も望んでいる医療はレベル3とレベル4。大きなギャップ。
その大きなギャップに気づき、医療のあり方を患者と医師が一緒になって改善を始めている。