『壊滅』 エミール・ゾラの長編小説 論創社 2005年 (1892年刊行)

 


ゾラが見た普仏戦争とパリ・コミューンの惨劇。スダンの闘いからパリ崩壊まで。
プロシア軍の捕虜となったナポレオン三世。戦場を彷徨する労働者・ブルジョア・
農民兵士たちをめぐる愛と別離の物語。
 ジャンとモーリス(主人公)が脱走し、フーシャール爺さんの家にたどり着き、
負傷したジャンが果物所蔵庫であった「神秘的な部屋」で闘病生活を送り、
アンリエットが看病する。弟のモーリスからジャンを託されたアンリエットは
黒い未亡人服に身を包み、彼を看病しながら野戦病院に通う。二人の間には階級の
差を越えた、一種の親密さが生まれ、それが生活の中へと組み込まれていく。
ジャンはまだ戦場の大殺戮の記憶の中にあり、アンリエットは夫の死による痛手を
受けていたが「安らぎに満ちた生活」を感じる。彼女は弟の恩に報いるため献身的に
看護し、ジャンは無限の感謝を感じる。
 そうしているうちに厳しい冬が到来し、空は灰色がかって物悲しくなり、雪が舞い、
風が吹き荒れ始める。彼女が通う恐るべき悲惨な野戦病院では、次々と負傷者たちが
死んでいく。ジャンはこのままとどまり、アンリエットと再婚し、家族を養う畑を
手に入れることができればと夢想するようになる。アンリエットもジャンに愛情を
覚えはじめる。
 しかし、まだ回復していないジャンは戦いのためにパリに向ったモーリスを追いかけ、
パリに出かける。民衆がプロシア軍に降伏した政治家、ブルジョワジーに向って革命の
戦いを起こす。パリ・コミューンである。二人は、ジャンが予想した住居で再会する。
二人で戦いに挑み、玉砕する。1870年から1871年、ベルギー国境フランス領スダンでの
プロシアとの戦闘。近くのムーズ河は馬と人間の死骸で腐敗、猛烈な悪臭が立ち込める。
フランス軍の完敗である。方針のハッキリしない上官たちに苦労しながら、大勢の死者
をだした。プロシア軍はパリに向かい、ヴィルヘルム王、ビスマルク、モルトケ将軍が、
周囲34キロにわたって城壁を巡らす大包囲網。15の要塞と6つの離れた砦をもつパリは
牢獄のようになった。防衛軍は8万の兵士、1万4000の海軍陸戦隊、1万5000の遊撃隊、
11万5000の騎馬国民軍、30万の国民軍と人数だけは揃っていたが、実戦を経験し修練を
積んだ兵士はいなかった。道路は遮断され、軍事地帯にある家は取り壊された。4時間
に渡るプロシア軍の砲撃を受け、フランス軍は降伏した。