「よく売れる」「売れない」は結果です。「よく売れるマーチャンダイジング」「売れないマーチャンダイジング」の主要な原因は
バイヤーさんにあります。「売れるだろう」という推測や可能性は現実ではありません。検証せずに確信しているのは間違い
です。数字で現実をしっかり把握する必要があります。仮説検証がバイヤーの基本活動です。
5−1.購買代理人バイヤー 「資質13ヶ条」
バイヤーさんに得意な人、不得意な人、向いている人、向いていない人があります。それが資質です。交渉は力の勝負
ではありません。相互協力して勝利を勝ち取る精神の持ち主でなくてはなりません。ウィンウィンの関係を協力して構築
(関係構築モード)できる人でなくてはなりません。
以下はイヴ・ゴードフレイ『小売経営概論』を参考にしています。
5−1−1.資質@ 自分の好みを優先しない
自分好みで仕入れることはできません。お客様の好みをよく分析し、理解し、確信を持って商品を仕入れる実力が必要
です。お客様の「五感」を仕入れにあたって最優先できなくてはなりません。試食の徹底、POSデータの解析力がなけれ
ばなりません。
5−1−2.資質A 経験を優先しない
経験は科学ではありません。経験は人それぞれの「解釈」です。解釈は人によって違います。経験は真実ではありません。
解釈なのです。真実に近づいていく気迫が必要です。経験の主張ではなく科学的な数値で確信を伝えなくてはなりません
。確信は検証結果です。販売データの検証が何より重要です。仕入れの結果に責任感をもち、潔く責任を取らなければ
なりません。
5−1−3.資質B 情熱を傾ける人
自分の仕事に、興味と熱意、情熱を示す人が絶対条件です。偉大なエネルギーが感じられる人、オーラがある人、その
ような資質を周りの人は求めています。熱意はすぐ部下に伝わり、それにつられて部下も熱心になります。率先垂範できる
人が適しています。
5−1−4.資質C 想像力と指導力に長けている
想像力に富み、指導力がなければなりません。自分の持場を伸ばす方法を常に求め、新しい販売技術を実験し、想像
力豊かな販売促進キャンペーンをつくり出す能力があれば、どんな競争にも対応することができます。自分の仕事が大好
きでなくてはなりません。自ら想像し、意思決定し、工夫する人が適しています。
5−1−5.資質D 先を読める人
先見の明がなければなりません。仕入れは未来の仕入れだからです。3ヶ月、6ヶ月前に商品を準備する必要があるから
です。トレンドを読み、早めに商品調達する計画力のある人が適しています。POSデータから仕入れた商品の動きのカー
ブを洞察する力(データ読み込み能力)が必要です。数学が好きでないとデータを読むことができません。数学が得意な
人が向いています。経営は数字です。
5−1−6.資質E 共感力に富んでいる人
お客様、会社の上司と部下、お取引先営業マン、業界同業の方々など、たくさんの方々とコミュニケーションできる能力
が重要です。スムースにコミュニケーションするためには「聞き上手」な人が適しています。人々に興味があり、人と話すこと
が大好きで、そして相手の話していること、人間性に興味を持っている必要があります。決して饒舌であってはなりません。
相手の気持ちを考慮しながら話し、聞くべき時には冷静に聞く必要があります。
5−1−7.資質F 「対人折衝力」を持っている人
対面する方との上手なお付き合いが出来る人は「対人折衝力」を持っています。対人折衝力を持っている人は、部下
の言っていることを十分に理解し、思いやりをもって対応できます。公平に部下と対面し、部下の能力を見極め、必要な
能力を求め、指導します。部下から、恐れと怒りではなく、尊敬と信頼を勝ち得なければなりません。そして、どんな問題
にも部下から指導を求められるような雰囲気が感じられる人でなければなりません。
5−1−8.資質G 学習・研究意欲を持っている
売場での手続き、販売技術、商品知識に精通し、部下を教える力があり、指導できなければなりません。知識をたくさん
持っていることが前提になります。日々、学習し、知識を豊富に保つ必要があります。生涯学習を心がけている人です。
5−1−9.資質H 任せることが出来る人
部下を育てるには失敗を恐れず挑戦させる心を持っていることが重要です。能力のある部下に進んで権限を委譲し、挑
戦させなくてはなりません。「責任を持たせ」「やらせてみる」幅広い心が必要です。部下を信頼できず、自分だけでやろう
とすれば、ストレスに陥りノイローゼにならないとも限りません。日常的な書類事務、会議資料作成などの責任を、できる
だけ部下に任せる必要があります。そうすることで部下は育ちます。いまより「1つ上の仕事」に部下とともに挑戦することで、
お互い、能率が向上していきます。
5−1−10.資質I 多彩な個性の持ち主
つぎのような個性という言葉であらわせない資質を持っている人物はバイヤーに向いています。風采、活力、声、ものごし、
信念、指導力などです。逆に、内気、引っ込み思案で、人を避け、感受性の強い人間は、よいバイヤーになれません。
5−1−11.資質J 社交術に長けている
仕入れは、非常に社交的な仕事です。仕事上の昼食、メーカーとのイベントやパーティ、正式な会食など、多くの会合
があります。人を魅了する社交術と礼儀は、バイヤーの大きな財産になります。社交性はバイヤーに必要な大きな資質
です。
5−1−12.資質K 数字的能力
数字に勘が働く資質が重要です。数値の裏にある時間空間を判断できなくてはなりません。数値は現実を客観的に
表現します。数字と現実をよく理解できなくてはなりません。推測や可能性は現実ではありません。
5−1−13.資質L 外向きの人
仕入れ係は外出好きである必要があります。社内にとどまっているのではなく、積極的にお店に出かけ、お取引先を訪問
し、業界のセミナーに参加し、旅行に出かけ、多くの時間を市場で過ごすことができる資質を持っていなくてはなりません。
5−2.購買代理人バイヤー 「資格7ヶ条」
弁護士、保健士、司法書士など資格を獲得するために試験を受け合格しなければなりません。小売業界では「販売士」
の資格試験はありますが、残念ながらバイヤーの資格試験はありません。以下、バイヤーに必要な資格について述べます。
5−2−1.資格@ 商品知識
仕入商品について、広い知識を持っていなければなりません。製造技術、耐久性、扱い方、他の同種商品と比較した
市場価値などの知識です。知識を得るには、本や業界紙をよく読み、専門講座に参加し、工場見学をし、販売経験を
積まなくてはなりません。経験は 単に年数を積むのではなく、学習と実践の積み上げです。
5−2−2.資格A 顧客購入傾向把握能力
顧客の要望を知り、流行と需要の変化を予想する力がなければなりません。それには、売場で顧客と話をする必要が
あります。販売員と頻繁に相談し、顧客ニーズを的確に把握する能力の資格です。販売員は、何が売れ、何が売れな
いかについて確固たる意見を持っています。たとえそれが偏見でも解釈の参考になります。新聞、テレビ、雑誌、業界紙、
市場調査、業界統計から、消費者の購買動向を常に探れなくてはなりません。
5−2−3.資格B 分析力
数値で考え、数値でコミュニケーションする能力を持っていなくてはなりません。在庫、売上、未到着注文品、年間もしく
は半期の商品回転率、仕入れ限度額(仕入れ枠予算、オープン・トゥ・バイ)、売れ行きの良い品と悪い品の解釈、サ
イズ・スタイル・価格・色別の売れ行きなどの販売トレンドを常に配慮する能力が必要です。単品管理(ユニット・コント
ロール)技術は、バイヤーの基本的な責任になります。
5−2−4.資格C 観察力
地域の取引事情に通じていなければなりません。とくに、顧客の購買習慣に影響するような天候、社会イベント、社会・
経済事情に注意できなくてはなりません。周りをよく見ることができる資格です。競合店の商品、価格、販売方法も常に
観察し、競合店以上の価値を生み出す研究意欲がなくてはなりません。
5−2−5.資格D 政治経済関心力
国際(グローバル)経済や国家経済の動きも、仕入れに影響します。政府の信用取引に関する引き締め、為替レート、
もしくは政府政策は、直接、消費者の心理に影響を与え、それが売上に影響します。特に消費税など増税は消費に
大きな影響を与えます。グローバル化がかなりのスピードで拡大する状況を理解し、その情報が販売にどのような影響を
もたらしているかを解釈し、説明できなくてはなりません。
5−2−6.資格E 規律遵守
自分の会社の制度、店舗の制度を詳しく知っていなければなりません。とくに、取引先、株主、関連業者との取引制度
や販売方式、マーチャンダイジングの方法、組織運営制度などしっかり理解していることが必要です。
5−2−7.資格F 探究心
最新の販売方式を、常に注意し、研究し、導入できなくてはなりません。良いと思ったら、即座に実行し、検証し、評価し、
改善します。本や業界紙に目を通し、取引業者に打診し、関連業界のセミナーを受講し、国内外の繁栄している店舗を
見学する必要があります。
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