ライフタイムバリューの活用法

マーケターはなぜもっとライフタイムバリューを活用しないのか?

データベース・マーケティング、リレーションシップ・マーケティングは、顧客のライフタイムバリューの最大獲得が究極の目標である。しかし、このライフタイムバリューの理解、それを追及する姿勢はまったく未熟である。小学生レベルというより入学前といった状況にある。以下は、データベース・マーケティングの指導者、フレデリック・ニューエルのレポートの要約である。

ライフタイムバリュー(*1) のルーツ

もともとのライフタイムバリューの考え方は生保業界のダイレクトレスポンス広告のマーケティングから発生したものである。ダイレクトレスポンス広告とは、新聞や雑誌などに広告を出し、直接、顧客から問い合わせを受け、注文を獲得するマーケティング手法である。保険に入った月から解約まで保険金を支払う。顧客から得られる合計金額がその顧客のライフタイムバリューになる。
ライフタイムバリューのコンセプトを理解し、これを顧客マネジメント戦略の核として活用していく必要がある。マーケターがなぜこの概念をマーケティング戦略の位置付けとして利用しないか分からない。顧客がまだわが社を愛してくれているのか、またどれだけ愛を示してくれているか知ることが顧客マネジメントに重要である。

スーパーマーケットのライフタイムバリュー

私、フレデリックは20年間ある島に住んでいる。事情が許す限りさらに20年、あるいはそれ以上住み続けるつもりだ。この島に来てから家族は、ほかにスーパーがあるにもかかわらず、同じスーパーで買物している。
そのスーパーで私達は毎週約75ドル(1ドル120円換算で9000円)買物をする。年間にすると3900ドル(46万8000円)。
このスーパーにおける私の買物のライフタイム(生涯)を長く見積もって40年とすれば、私のライフタイムバリューは15万6000ドル(1872万円)。どのスーパーにとっても大きな金額である。
このスーパーが私のショッピングを勝ち取るために、100ドルあるいは500ドルかけていたとしても、彼らにとってはお買い得な顧客といえる。現在、彼らは私を手中に収めているわけで、彼らが私との潜在的15万6000ドルのビジネスを維持するため、個人的で特別な努力をしてくれることを私は期待したい。
しかし、彼らは私が誰なのか知らない。レジ係のスザンナが「こんにちは、フレッド。旅行にいらしてたのよね」「ここ2週間ほど奥様をお見掛けしないけどお具合悪いの?」と声をかける程度のものである。しかし、私はこのスーパーのマーケティング・マネジャーから15万6000ドル分の顧客としての扱いは受けていない。

自動車販売ディーラーのライフタイムバリュー

私は過去25年間キャデラックを3年ごとに買い替えてきた。私にはあと20年は買い続ける潜在力がある。1台4万5000ドル(540万円)とすると、45年間15台の購入になるので、ライフタイムバリューは67万5000ドル(8100万円)になる。キャデラックの社員は私を獲得するためにお金をどう有効に使えただろうか。私をキープするため何にお金を費やすべきか。彼らは私を知らない。私はキャデラック社から67万5000ドルの顧客として扱われていない。来年はレクザスを買い、キャデラック社がどのような対応をするか試してみようと思っている。

ライフタイムバリューを増大させる近道

通常、ライフタイムバリューは顧客一人ひとりではなく顧客をセグメントして計算する。ライフタイムバリューの計算は、その顧客セグメントの平均維持率・顧客の支出・期間累計売上高・期間累計利益、そのセグメント顧客の獲得と維持コストに基づいて算出する。以上の構成要素を改良することによって顧客セグメントのライフタイムバリューは増加する。
たとえば、顧客維持率が高くなれば、顧客支出が多くなれば、利益率が高くなればライフタイムバリューは増加する。また、顧客獲得コスト、維持コストが下がればライフタイムバリューは増加する。
顧客の取引履歴ファイルによって、これら構成要素を追跡することは容易である。
顧客ファイルは一定期間内で何人の顧客が購入するかを示してくれる。唯一分からないのは、顧客が離反する正確な時期である。
ある時点で顧客は去る。ある者は転居するし、亡くなる人もいる。またある人は、応対が不十分と感じて立腹して去る。商品が必要でなくなる人もいる。
顧客が引越し、あるいは去っていくのを知る方法(正確な時間経過離反率)をまだ見出していないため、顧客維持を測定する他の方法を探さなくてはならない。
複雑な計算式を考え発表もしているがマーケターが必要とするシンプルな答えを出すのに役立たない。ライフタイムバリューを増大するプログラムを確立するのに必要な近道を以下に述べる。

リーセンシー(最新購入年月)の活用

リーセンシー・レポートの簡単な学習で、購買しない正確な期間を知ることができる。未稼動顧客になった人も知ることができる。通常、稼動顧客(アクティブ・カスタマー)は、過去12ヶ月から24ヶ月の間に商品を買った人を言っている。
たとえば、リーセンシー12ヶ月以内を稼動顧客と定義するなら、少なくとも年1回購入するすべての顧客が稼動顧客となる。この稼動顧客セグメントの累計購入額を計算し、累計購入金額から商品原価とマーケティング費用を差し引いた平均金額が、この顧客セグメントのライフタイムバリューになる。
顧客ファイルに100万世帯含まれていると仮定しよう。そのうち60万世帯が過去12ヶ月間に購入していたとする。彼らの年間売上は300ドルであったとする。
通常、ライフタイムバリューの測定期間は5年間である。ライフタイムバリュー追跡期間を5年とし、貨幣価値が目減りする利率(割引率)を10%にしたとき、顧客ライフタイムバリューは下表のようになる。

図:年間300ドル購入する顧客の総現在価値における5年推計(Projection)

売上
割引後売上
LTV
1
300
300
300
2
300
270
570
3
300
243
813
4
300
219
1032
5
300
197
1229

ビジネスによってはもっと単純な活用方法がある。単に顧客維持率をガイドとした方法だ。
たとえば、ある顧客セグメントで年間20%の顧客が失われているとする。このセグメントは5年のライフタイムがあるとして、ライフタイムバリューの算出に5年間の購買金額を使う。5年でライフタイムバリューへの加算はゼロになると仮定するからである。これは正確でなくともうまくいく迅速でおおざっぱな計算方法である。

顧客維持への投資

顧客維持率の向上と顧客の買物回数を1年に1回以上キープできれば、顧客の買物額が上昇し、グロスマージンが増加し、マーケティング費用が減少し、ライフタイムバリューは上昇する。
ライフタイムバリュー上昇に最も効果があるのは顧客維持率の向上である。顧客があなたの店で長く買物を続ければ、確実にライフタイムバリューは増える。顧客の店離れが早ければ早いほど、ライフタイムバリューは減少する。
賢いマーケターは年に1回以上買物する顧客の特徴を選び出し、新規顧客を獲得するために活用する。特徴に類似した見込み客に購買キャンペーンを実施し、新規顧客を獲得する。
マーケターはライフタイムバリューを増加するために、よく購入しているブランドに顧客を結びつけ、長期間購入してもらう関係構築プログラムに、より多く資源を投資する。
マーケターは顧客維持率アップに全力を注ぐにつれて、高利潤の潜在力をもつ顧客により多く資金を費やすようになる。
スーパーの平均ライフタイムバリューが4680ドルなら、私のライフタイムバリュー15万6000ドルは特別な応対に値する顧客グループとして扱うべきである。
スーパーは満足度を増すためにできることは何でもして、私との関係づくりに努めるべきだ。

ライフタイムバリューの本質

ライフタイムバリュー増大に重要なのは数字ではない。会社が顧客と築く関係によってライフタイムバリューは上昇する。販売は、結局、人。売り側と買う側の人的な関係である。あなたの商品を買う人が、また戻って購入したいと思うほど、あなたを好きになれば、あなたのライフタイムバリューは増える。会社が顧客満足を増やすほどライフタイムバリューが増す。ライフタイムバリューを増加するのは数値の分析ではなく、顧客とのリレーションシップのよしあしに依存している。顧客の満足を実現していくことが先であり、ライフタイムバリュー数値はその結果であることを忘れてはならない。

ライフタイムバリューの真の意味

ポール・ワン博士はライフタイムバリューを見込み通りに維持することについて、つぎのように語った。

「学生にライフタイムバリューの算出方法を教えた後、彼らに常に喚起するのは、ライフタイムバリュー計算の正確さについての最終判断は、社長や財務担当役員の誰ではなく顧客である」

「われわれはよくライフタイムバリューを過信し最も重要な顧客へのフォーカスを忘れてしまう。そうであってはならない」

「ライフタイムバリューはマーケティングを実施する参考の枠組みをつくる適切性を持っているが、それ自体は意味を持たない。顧客こそが真にライフタイムバリューをコントロールするという事実を認識してこそはじめて意味がある」

「よってライフタイムバリュー算出が会社戦略の考え方を刺激し、顧客の将来的ニーズや要望に応えるマーケティング努力が図られるように設計されなければならない。ライフタイムバリュー算出は目的のための手段に過ぎないのだ」

ライフタイムバリューの測定は、顧客とのロマンスが申し分ないことをマーケターに確信させる。ライフタイムバリューは、データベース・マーケティング・マーケターの戦略的思考を刺激し、顧客のニーズに合うようにマーケティング努力をする方向にマーケターを導く。

 

*1   http://en.wikipedia.org/wiki/Customer_lifetime_value 用語の解説