8年間でセインズベリーに市場占拠率8%の差をつける
テスコは現在、英国食品小売市場で4分の1に近い、23.6%のマーケットシェアを獲得し、2位以下を大きく引き離している。同社が、長年トップの座を守り続けたセインズベリーを抜き1位に躍り出たのは1995年。その後、セインズベリーに毎年1%のペースで差を広げ、03年には8.4%に拡大。その差はさらに拡大しつつある。
テスコの業績推移に注目してみよう。03年度の連結ベースの売上高は263億ポンド(約5兆円)で、世界小売ランキングでは前年の13位から一挙に7位に上昇した。
売上高は過去4年間で53%増加しているが、とくにこの3年間の伸び率は二桁台と好調である。テスコによれば、この高成長の牽引車は、@英国内売上高、A衣装品を含む非食品、B各種リテールサービス、C海外売上高の4つである。
営業利益も急な右肩上がりを示しており、連結ベースの営業利益率はコンスタントに5.6%を維持している。英国、欧州、アジアの3部門のうち、営業利益面でアジア部門のみが赤字を続けていたが、01年度に黒字に転換し、今では3部門全てが採算ベースに乗っている。連結ベースの純利益額の伸び率も好調であるが、とくに注目すべきは純利益率で、この5年間は3.4%から3.6%を維持している。02年度の純利益額は9億4600万ポンド(約1800億円)で世界の大手小売業で第6位だ。
英国急成長の原動力「セールス・サービス戦略」
テスコの好業績の理由は、そのマネジメント力によるところが大きい。英国ではその原動力となっている、卓越した「セールス・サービスシステム」が次のように展開されている。
@ PB商品の使い分け
テスコは、高品質の「ファイネスト」ラインと、価格で勝負する「バリュー」ラインのPBを揃えている。前者は現在110品目、後者は1200品目を数え、テスコ全売上高に占める割合は最近50%まで上昇した。両ブランドとも当初は食品に限られていたが、今では衣料品、日用品・雑貨にも拡大され、売上増に寄与している。特にファイネストはスタート6年で1ビリオンポンド(約1850億円)の大台に乗せ、同ブランドの化粧品、衣料品は有名ブランドに対抗できる知名度を獲得している。
A クラブカードオペレーション
テスコが95年2月に他社に先駆け全国導入したポイントカード「クラブカード」も、好業績の大きな要因だ。100ポンドの買物で1ポンド相当のポイントがもらえるショッピングカードは今では珍しくないが、そのオペレーションが営業や商品開発の強力な武器となることが実証された。テスコのクラブカードは売上高を飛躍的に伸ばし、ライバルのセインズベリーを抜いて同年テスコをトップ小売業に押し上げた。英国の代表的業界紙"ザ・グローサー"はこのことを96年代のトップニュースに取り上げている。
カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)
クラブカードの購買履歴データは、全てダンハンビー社に送られる。同社はテスコが50%出資しているカード情報専門の分析会社。カード情報からテスコの全顧客のライフスタイルを分析し80のグループに分けて管理している。
テスコは商品計画に従い同社と意見交換をしながら販売戦略を進めている。例えば、そのグループの一つに、ダブルインカム・ノーキッズ(DINKS・子供なしの共働き夫婦)がある。このグループは収入が多く「ファイネスト」ブランドのレディミールやワインの大口消費者だ。 顧客グループ別に、テスコから年4回ダイレクトメールで獲得ポイントと通知書とクーポンが送られるが、クーポン券の適用商品は顧客の最も喜ぶ商品に絞られる。そのためには顧客は喜んでテスコの固定客となる。テスコは欧州でも有数のダイレクトメール発送者として知られている。
カード情報による商品開発
テスコがファイネストブランドのPB商品を開発する際、カードから得られたショッピング情報を利用することはよく知られている。カード情報により、同じ顧客がファイネストを特別の目的で、バリューを普段の買物で利用することが分かっている。
新商品のテストマーケティングは商品開発担当、仕入購買担当、カスタマープランナーの責任で実施されるが、カード情報から得られたショッピング情報を利用することはよく知られている。カード情報により、同じ顧客がファイネストを特別の目的で、バリューを普段の買物で利用することが分かっている。
新製品のテストマーケティングは商品開発担当、仕入れ購買担当、カスタマープランナーの責任者で実施されるが、カード情報分析担当のカスタマープランナーは当該商品の予想された購入者が、実際その商品を購入したかをチェックした上で、販売に踏み切るか否かを判断している。B
ホームショッピング(Tesco.com)
テスコは食料品のホームショッピングで成功を収めた、世界最大手小売業でも唯一の存在だ。そのノウハウを既に米国のSMチェーンのセーフウエイ、韓国のホームプラス、アイルランドに輸出しており、アイルランドでも既に採算ベースに乗せた。欧米の専門業者やSMチェーンがこの事業を立ち上げるため加工センターを建設したのに対し、テスコは店内ピッキングによるノウハウで成功を収めた。
英国での売上高は02年度で前年比26%増の4億4700万ポンド(約850億円)に達し、英国の食品ホームショッピング業界で65%の占拠率を獲得。テスコが配送できる地域は国民の96%をカバーしている。
価格は、店頭価格と同じで、配送料が別に5ポンドかかる。毎週インターネットで届けられる11万件のオーダーに対し、各店に3,4台設置されている保冷配送車が対応している。受注後、早ければ2時間で届けられ、配送時間を指定することもできる。
C テスコ・インフォメーション・エクスチェンジ(TIE)
これはテスコ版の「リテール・リンク」だ。ホストコンピューを利用し商品ごとの各店別売行き状況をサプライヤー(メーカー)に提供している。情報の質とによっては有料の場合もある。それらの情報に基づきテスコとサプライヤーは定期的に情報と意見の交換を行っている。
D 経費削減に効果発揮するステップチェンジプログラム
02年度に、「ステップチェンジプログラム」と称し、3種類のシステム変更を行った。第1がコンティニュアス・レプレニッシュシステム、第2がファクトリーゲートプライシング、第3が勤務シフト表作成のオートメ化だ。これにより同社は2億3000ポンドの経費を節約できたと発表した。
コンティニュアス・レプレニッシュ・システム
テスコは、これまでマニュアル方式で商品発注を行ってきたが、02年度からコンティニュアス・レプレニッシュ(連続補充)システムに切り替えた。これは各店舗のチェッキングカウンターの売上情報から、コンピューターが必要補充量をはじき出し、自動的に出荷手配するもので、商品ごとに12時間間隔で締め切り出荷することから「連続補充方式」と読んでいる。この結果、テスコの売上充足率は97%から2%近く上昇し圧倒的な優位性を確立した。ただしピースピッキングは行わず、すべてケース単位の発注となっている。
ファクトリー・ゲート・プライシング(FGP)
従来、小売業はメーカーから届け渡し条件の価格で仕入れる場合が多かったが、テスコは製造工場門前渡し条件に切り替えつつある。02年度にスタートしたこの計画の交渉相手は約1000社のメーカーで、仕入れ金額の55%がすでにFGPに切り替わった。
この場合、メーカーのストックポイントへの搬入経費などを差引くことができ従来の仕入れ価格よりも3%程度安く仕入れることが可能となる。これも仕入契約がメーカー直結で、さらに国内各地を走るトレーラーをコンピューターで制御しているテスコでなければできないことだ。搬入を終えたトレーラーの帰り車を商品引取りに差し向ける必要があるからだ。
E クラブカードプラスからバンキングに参入
テスコは、預金金利と一緒にポイントがつく「クラブカード・プラス」を96年から普及してきたが、97年にロイヤル・バンク・オブスコットランドと折半出資して「テスコ・パーソナルファイナンス」を設立し銀行業務に参入した。いまでは金額次第で抵当権も設定し、貸し出し業務も行っている。97年に「テスコVISAカード」を発行したが、これは世界1200万店で利用できるクレジットカードだ。「テスコ・セービング・アカウント」は小売店と1ポンドから預金ができ、大手銀行より預金金利は高く、貸し出し金利は低い。
買物した際にレジで「キャッシュバック」と言えば、50ポンド(1万円弱)未満なら貸し出しを受けられる。これらの業務の相談については、「テスコ・パーソナル・ファイナンス・24アワーコールセンター」が24時間受け付けている。
さらに、同社は家庭損害保険のほか旅行保険、年金商品の販売、外貨交換とトラベラーズチェックの発行に進出。テスコの店内に入ると、壁に面して小さな電話付の「テスコ・パーソナル・ファイナンス・ユニット」がほとんどの店舗に設置されている。
F テスコネット
同社は98年、小売業として最初のインターネット・サービスプロバイダーとなった。事業名は「テスコネット」で接続料金は格安となっている。この事業が売上高にどの程度寄与するかは未知数だが、PR効果は大きいものと推定される。
G テスコ・モーバイル
テスコは03年夏から英国携帯電話サービス大手mm02と合弁企業を設立し、独自の携
帯電話サービス「テスコ・モーバイル」を開始し通信事業に本格参入した。mm02の通信技術とテスコのブランド力を利用して、テスコブランドのプリペイド式携帯電話の販売を行い、5年間で200万人の顧客獲得を目指す。販売ルートはテスコの店頭もしくはTesco.comだ。利用する顧客はテスコのポイントカードの得点を利用できる。通話料は他社よりも格安だ。
H RFタグの実用化へ
ウォルマートは、05年までに主要仕入先100社にケース、パレットベースでRF(ラジオ・フリークエンシー)タグを付けるよう要請しているが、テスコは一歩先を歩んでいるようだ。
テスコは2000年からDVDやジレット製品などでRFタグのテストを行ってきた。特にDVDは補充が迅速に行えるなどのメリットがあり、スタッフにも好評で、04年末までに全てのDVDに付けることが決まっている。このほか家電製品、酒類、保健医薬品などにも広がる見込みだ。
ケースとパレットへの装着について、テスコは04年4月から店舗と配送センターの間で主要メーカー商品に絞りケースベースでタグによる納入処理を行うと発表している。 さらに06年から配送センターに納入する全業者にケース・パレットの両ベースでRFタグを付けるよう要請している。
出典:『食品商業』 2004年2月海外企業レビュー 英国マーケット「独走テスコの挑戦状」より
|