重要なことだが、テスコではクラブカードの存在こそが顧客に対して常に感謝の気持ちを示すしるしとなっている。つまり、カードを始めた際の広告で表したように、クラブカードは世界一大きな"ありがとう"の気持ちを表すカードとなっている。常日頃ビジネス世界で顧客中心について議論がされる一方で、テスコでは顧客への奉仕を実現することに努めている。クラブカードは、顧客がテスコで購入する見返りに、配当を提供するという明確な"顧客との契約"を提示している。
テスコのクラブカードは、テスコに対する顧客のロイヤルティを示すだけでなく、さらに重要なことだが、テスコが顧客に対してロイヤルテルを認識する意味を持つのだ。
競争相手を出し抜いてきたその手腕によって、焦点を絞った実用的だが先見の明のある方法でテクノロジーに投資してきた、テスコがいかに注意深く―より適切に言えば、物惜しみするかは有名な話だ。クラブカードを実施するにあたり、テスコは顧客の経験を向上のために新しい技術を活用し続けていることも明らかなことである。
ほかのビジネス同様、クラブカードの導入にあたり、全くミスがなかったというわけではないが、同じ分析を用いてミスを識別、修正し、積極的に変更してクラブカードを作成した。そして認められた原則のひとつが、完全な成功と完全な失敗は存在しないということだ。テスコではクラブカードに起こったすべての事柄を、学びと精錬、そして改善の機会とみなして取り組んだ。カードがどの程度機能し、あるいはしていないかを常にモニタリングし、評価している。
クラブカードはビジネスの属性と管理を反映するものだ。それはチームの強い倫理感や顧客への全力奉仕、そして何よりも重要である、徹底した小売業の実用主義である。1990年後半、イギリス大手スーパーマーケットのロイヤルティプログラムは失敗したり、行き詰ったり、取り掛かりさえしないという状況で、テスコでは顧客ロイヤルティマーケティングを目的どおりに稼動させた。
1995年から毎年のように、ロイヤルティの理論の終焉を大々的にニュースで取り上げてきたが、それはロイヤルティの基本理念が過去の思い出となっている他の小売業者からの熱烈な支援によるものだ。「ロイヤルティカードはその栄光を失った」はセーフティが自社のABCカードを廃止した2000年5月に述べた言葉だ。「すべてのデータを分析することは狂気の沙汰だ」と述べたウェイトローズは、その後この取り組みを断念している。いままでにクラブカードが戦略的優先事項として、管理者たちの間で議論が交わされたことが一度もなかった。しかしながらテスコでは、現行のビジネス方法を改善する適切な知識を活用し、クラブカードによって適度に売上を上げることによって、クラブカードを批判する人たちにその効果を示した。
クラブカードは小売業におけるロイヤルティマーケティングにおいて、いかに効果的であるかを示している。このことはテスコがいかにうまくスーパーマーケット業界に存在する数多くの先入観を覆すのに成功したかを立証している。そして量販店と顧客が相互の信頼関係を強めつつ、量販店がいかにして顧客を個人として認知し、数多くの顧客と長期にわたる関係を築くことが可能かを示している。それは継続的に改善するプロセスを生み出す方法のケーススタディであり、販促プログラムだけにとどまらず、ビジネスすべてにあてはまる。それは大胆な躍進によるマーケティングの想像によって、テスコが強大な業績を得ることを明らかにした。食料雑貨ビジネスにおいてテスコをナンバーワンの地位に押し上げたのはこの力である。
クラブカードにはもう一点、注目すべき事実がある。1年に4回、買物の際に自由に使える割引券を顧客に送付していることだ。このプログラムを開始してから2002年終わりの8年間で、割引券発行金額は1兆ポンド(207兆円)に上った。テスコはクラブカードの利益によってその費用を賄っている。1995年以来テスコでは、ロイヤルティプログラムの運営コストはクラブカードよる売上の利益を、直接販促に充てている。
つまりテスコではロイヤルティプログラムの費用は、企業の運営にかかる諸経費に含まれていないのだ。テスコのクラブカードがうまく機能しているので、顧客が何を必要としているかを見つけてそのニーズを満たすことができ、その結果カードの運営費用を補填できるだけの売上を顧客が生み出してくれることを発見したのだ。 テスコではクラブカードを1995年以降、純費用に全く計上することなくクラブカードの運営を続けている。
"Scoring Points How Tesco Is Winning Customer Loyalty" (Kogan
Page Ltd)
Clive Humby , Terry Hunt , Tim Phillips (著)
より掲載
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