スーパーマーケットにおけるロイヤルティマーケティング

ロイヤルティマーケティングとは何か

・ 新規顧客と1年間購入した既存顧客の比較で、顧客の1回のお買上金額は変わらないが、年間の
 購入金額は後者が4倍であった。
・ ロイヤルティマーケティングとは、見込み客を顧客にし、顧客に再購入を促進し、継続購入日数を
 高めていくためのコミュニケーション戦略。顧客を自分の店に対してロイヤル(忠実)にすることがゴール。
・ ロイヤルティマーケティングプログラムは、顧客の購買思考や購買履歴などの情報提供に対して店が
 報酬提供する方法。収集したデータを活用し、店はマーケティングや商品構成などを行う。

ロイヤルティプログラムの運用

・ハイテク(カードシステム)
 顧客のカードから全購入品目を読み取るコンピュータシステムによるデータ収集。それを一定期間中の
 合計購入金額やカテゴリー別に抽出して、マーケティング活動を直接に適切に行う。
・ローテク(独自のリスト)
 店舗周辺の顧客や新規に引っ越してきた人へダイレクトメールでオファーを送付し、反応して来店した
 人々のリストを作成する。

ロイヤルティマーケティングプロモーションへ進化する過程

@ 従来型広告
・ 新聞に低価格・アイテムの広告を打ち、高品質のイメージ宣伝はテレビとラジオで補完し、人を呼び込む。
・ メーカーの支援を得た切り取りクーポン。
A 電子クーポン
・ カードを読み込むことで自動的に割引する切り取り不要クーポン。
・ 収集した顧客情報は活用されない。
B FSP(フリークエント・ショッパー・プログラム)
・ 1990年代に電子クーポンから進化
・ クーポン発行を中止しカード保持者にのみ割引提供するため二重価格(会員価格)
・ 収集した情報を調べ購入金額に応じた報酬提供を開始
C ロイヤルティマーケティングプログラム
・ FSPで蓄積したデータを分析し、利益性の高い顧客を特定するマーケティング
・ 顧客それぞれに異なるオファーを提供する

大型店ほどFSPを積極的に導入しているが、独立系スーパーもチェーンスーパーもFSPは競争戦術に欠か
せないものと認識している。

ロイヤルティマーケティングが増加する要因

1. ハードウェアとソフトウェアの低価格化による顧客情報収集コストの低下
2. FSPから基礎知識を入手
3. スーパーマーケットチェーン対クラブストアとカテゴリーキラーの競争

ロイヤルティマーケティングとカテゴリーマネジメント (詳細は後述レポート参照)

品揃え
・ ベストカスタマーの買う商品は低回転率でも取り扱いを継続する。
・ チェリーピッカーが主に買う高回転率で売り上げ数の多い商品は削減、取扱い中止する。
・ ベストカスタマーの好みに合わせたフレーバーなどの品揃えを決定する。
組織的コミットメント
・ カテゴリーマネージャーとデータベースマネージャーを一人のトップが管理。
商品陳列
・ 顧客の買いだめアイテムを選定し混雑する場所とエンドに陳列した結果、売上増大・在庫減少など
 の改善が見られた。

ロイヤルティマーケティングとインターネット

インターネットはコミュニケーション媒体の一つ。広告費や時間的プレッシャーを受けずに個別のターゲ
ティングとマーケットへの迅速な対応ができる。
・ 特売品チラシを中止してロイヤルカスタマーに月間ニュースレターを発行した結果、特売品購入率は2%
 から70%に躍進。
・ 月間ニュースレターをウェブサイトに載せることで1時間以内にできる顧客コメントや返答などの伝達手段
 ができた。
・ データベースを用いて顧客の問題を時系列でフォローし簡単にアクセスできる。
・ ウェブサイト上からダウンロードして印刷できる電子クーポンが実施可能。
・ ウェブサイト上から顧客のカード番号を用いて個別の好みと購買履歴に直接ターゲットしたオファーを訴求
 できる。

経営者が留意すべき点
@ コスト
A. ハードウェアとソフトウェア費用
  顧客の氏名とデータを読み込むスキャン装置は費用が高いため、徹底的なメーカー調査をすること。
B. ソフトウェアのパッケージ費用
  プログラムを展開するなかでアップグレードの必要が生じた場合の費用とプログラミング実行者の問題。
C. トレーニング費用
  従業員全員がカードプログラムを認識しその成功による恩恵を受けるようなトレーニングプログラムが
  必要。    
D. オポチュニティー費用
  カードプログラムには施設などのアップグレードができる資本なども必要である
  ため、ロイヤルティプログラム以前にできる店舗改善を検討する。
E. コミットメント費用
  一度提供を始めたポイントを撤回することは困難であるため、開始の検討を十分
  に行うこと。
A「新鮮さ」を保つジレンマ
 ロイヤルカスタマーにフォーカスしても一般のお客様同様に、同じプログラムの繰り返しでは飽きられてし
 まう。常に新鮮で楽しいことを提供しつづけなくてはならない。
B あなたにとってのベストカスタマーとは誰か
 自分たちが関心を払っていない潜在顧客の集団セグメント、たとえばヒスパニック系の住民が自分の
 商圏にいる場合、彼らのニーズに合わせた店舗づくりのほうがベストカスタマーに限定した広告よりも
 売上増大につながる可能性が高い。
C まず優良店となること
 ロイヤルティプログラムを導入しても、優れたサービスや品揃えなくしては競争に勝てない。お客様は低
 価格で近所の店よりも、優れた商品と居心地のよい環境でリーズナブルな価格の遠い店に足を運ぶ。
D 競合店がプログラムを開始した時の対応策は何か
 皆がプログラムを持つようになると、競争の勝敗を決めるのは顧客について最高のデータを持っているか
 どうかと活用できるかどうかである。
E 新規顧客獲得の努力
 マーケティング活動を既存顧客に限定し新規顧客獲得は口コミに頼るスーパーマーケットがある。しかし
 ロイヤルティマーケティング・プログラムで収集したデータからベストカスタマーの顧客タイプを分析してデモ
 グラフィック・プロファイルに適合する新規顧客獲得プランを開発するなど、ビジネス成長に欠かせない新規
 顧客を探しつづけることが必要。
F カスタマー・プライバシー
 あなたが顧客情報を他に売ると感じたら顧客は離反していく。長期的な視点では顧客の特定情報を
 メーカーなどに販売することはマイナスになる。

ロイヤルティマーケティングの将来

カードプログラムは米国のほとんどのスーパーで導入されており、どうやって他店と差別化を図るかが
今後の課題である。
以下、スーパーマーケット業界におけるロイヤルティマーケティングの現状および可能性のある将来の
シナリオを4つ紹介する。

@みんな自由に参加できる ―現在の混乱状態
 顧客データを利用する小売業者の能力はデータ分析ソフトの実用性に依存し、各店舗またはチェーン
 ごとに細分化されたシステムがスーパーマーケット業界には最適であるというのが専門家の見解である。
 しかし、FSPを導入している店で実際に顧客情報をうまく活用しているのはほんの数パーセントしかない。
 以下、FSP導入の利点と問題点を示す。

FSPの利点
・ 既存ソフトの活用、または自社ソフトの開発が可能
・ 店舗ごとに投資するため、情報の収集方法や活用方法を店舗内で決定できる
・ 競合店に情報が漏れない
・ 個人にターゲットすることで売上を増やし、マス広告費が削減できる
FSPの問題点
・ 店舗間のプログラムの標準化は困難
・ メーカーが非協力的(小売業者からの情報取得に対する投資がコスト高)
・ 店舗ごとに異なるシステム
・ 1店舗あたりの設備投資(ハードおよびソフト)、その他時間や人材に莫大な投資が必要
・ 毎日のシステムのメンテナンスが思った以上に困難
・ 充実した従業員教育が欠如
・ 顧客を魅了するプログラム内容の更新維持が困難

A折り込み広告よ、さようなら ―メーカーが主導権を握る
 メーカーとの提携によって、スーパーマーケットはメーカーからFSPへの出資を受け、またメーカーは
 スーパーから有益な顧客情報を得ることができる。つまり、メーカーはより効率的に商品を販売でき、
 小売業者は情報収集にかかるコストを他社から得られるので、以下に述べるような双方にとって計り
 知れない収益がある。

・ メーカーは顧客情報を活用してつぎのようなグループに顧客を分類でき、1つ以上のグループに対して
 販促キャンペーン(クーポンの発行など)を展開することができる。
  1) 長期的に同一商品を購入する大口購入者グループ
  2) 特定商品へのロイヤルティはないカテゴリの大口購入者グループ
  3) 競合者のカテゴリの大口購入者グループ

・ さまざまなスーパーに対応したメーカーのFSPを管理する信頼できる第三者の協力を得て複数店のデータ
 を蓄積・比較できれば、ジョイント販促キャンペーンが展開できる。このジョイントキャンペーンは競合者との
 競争に有効な戦略・戦術になる。
・ 競合しないメーカー同士で協力し、特定の顧客セグメントに直接商品を宣伝できる。数店でジョイントプロ
 モーションを実施すれば広告費を削減できる。
・ 独立系スーパーの提携は大型チェーン店に対抗できる唯一の方法である。メーカーの収益向上のために
 マーケティング情報を提供しない限り、独立系スーパーはメーカーに無視されつづけるだろう。


メーカーの出資でロイヤルティマーケティングを実行したいと考えるスーパーマーケットはそれ程多くないのが
現状である。メーカーの関与を伴わず、FSPへのマーケティング資金を有効に使う別の手段をつぎに紹介する。

B 一緒にがんばろう ―競合しない小売業者のためのスーパークインモデル
 アイルランドにあるスーパークイン(Superquinn  *1) は共通の利害関係にもとづく競合しない小売業
 者間で共通のロイヤルティカードを発行した。買物客はスーパークインだけではなく25店舗から特典を受
 けることができる。またガソリンスタンド、旅行代理店などカードの提携先は広がり、もはやそのカードは
 スーパークインの所有ではなくなり別機構となっている。獲得ポイントの価値は顧客に広く認知され、共同
 プロモーションによって広告費も削減できる。

このシステムで得た顧客情報の価値は大きいだろう。(例:玩具小売業者がおむつやベビー用品の購入
者の情報を得るのは大変有意義である)プライバシー問題の不安さえ払拭できれば、特定顧客へのター
ゲットオファーは小売業者に大変魅力的である。
地理的な制限のあるアイルランドで成功したこのモデルを全米で適用するには問題があるが、地域ベー
スなら実行可能だ。以下は提携を実際行なっている例である。

・ マサチューセッツ州にある非競合小売業者でLees Supermarket loyalty card (*2) を発行
・ カリフォルニア州にあるLucky Supemarketは非競合小売業者のクーポン券を顧客に送付
・ ニュージャージー州Casel's Supermarketは非競合の販売店に広告費を出資してもらい
 バースデイオファーを提供

提携する小売業者にとっては経済的に意味があるが、以下のような問題点もある。

・ 対象とする人口統計(デモグラフィックス)が類似していないとジョイント・マーケティングの意味がない
・ 提携事業の参加者を誰が決めるのか。スーパークインの場合は、パートナーシッププログラムを運営する
 別機構を設置した。
・ マーケティングやビジネスニーズが異なるため、プログラムの運営や開発上の問題の解決は困難

提携によって顧客に新たな利益を提供し、マーケティングコストをより大きなグループ間で分割、削減できる
メリットがあるので有効な解決法に思えるが、将来的に全く別の競合者に直面するかもしれない。例えば、
銀行やクレジットカード会社など。

Cクレジットカード会社規約
ロイヤルティ・プログラムは元々クレジットカード会社が始めたようで、キャッシュバックや特定商品の高額
値引きなどを行なってきた。クレジットカードを発行している銀行の中にはスーパーマーケットとの提携カード
プログラムを実行したところもあったが、銀行側の収益と消費者への普及はそれ程伸びず、成功しなかった。
しかし、将来的に銀行やクレジットカード会社によるスーパーマーケットを組み込んだロイヤルティ・プログラム
への取組が再び起こらないとも限らない。その場合、スーパーにとっての利点は、設備投資を押えられ、プ
ログラムに参加する上位顧客にターゲットプロモーションを展開できるということだ。問題点は競合相手もこ
のプログラムに参加するかもしれないので、非競合者同士で提携する利点がなくなること。

以上のシナリオに対する様々な見解

・ 独立系小売業者にとっては前述の4つのシナリオの中に一つ的確な答えがある。
・ スーパーマーケット業界においてロイヤルティマーケティングはまだ初期段階であり、多くの小売業者は
 その自動化(データ入手方法、情報検索、データマイニングなど)を懸念している。しかし、ロイヤルティ
 マーケティングで一番重要なのは、ターゲットプログラムの立案、接客方法、結果の測定である。
・ 将来的にはソフトおよびハードプロバイダーが普遍的なソリューションを提供し、情報の収集方法やそ
 の情報の共有化の問題は解決方向に向かうだろう。
・ メーカー主導FSPの妥協案として、メーカーが必要な情報のテンプレートの考案がある。この方法では、
 小売業者は独自システムや顧客のプライバシーを保持し、かつ利用可能な形でメーカーに情報を提供
 できる。
・ スーパーマーケット業界の本質は競争であるため、業界全般で協力してロイヤルティマーケティングに
 取り組むことは難しいかもしれないが、それが達成できれば実に強力な競争優位性が得られるだろう。
・ ロイヤルティマーケティングを実践しない優良店も存在するが、多くの来店客から収集できる取引データ
 は潜在的に大変意味があり、その情報を利用するためのソリューションを持つ人は今後増える。
・ 消費者、メーカー、スーパーマーケット業界に恩恵を与えてくれるシステムの考案、および実施により
 真のロイヤルティマーケティングが現実化される。

 

*1 http://www.superquinn.ie/opencontent/ アイルランド 2004年経営権を譲渡
*2 http://www.leesmarket.com/mt/lees/ イリノイ州ポストウエスト

ポイントパートナー参考サイト
http://www.tavelclubs.es
http://www.airmiles.co.uk
http://www.smarttownalliance.com
http://www.bonuslink.com.my
http://www.dinersclub.co.uk
http://www.pointsciel.com
http://goldpoints.com
http://weddingpoints.com
http:///www.nectar.com